わたしは死にました。この東京という街で死にました。誰にも気づかれず、鉄とコンクリートに埋葬されて死にました。ああどうして、ああ、ああ、どうしてですか。何がわたしを殺したのですか。


三日前。

「まなみちゃん困るのよ、枕営業は」
「どうしてですか」

わたしはキャバクラで働いていました。お店は夜のネオン眩しい新宿で、一、二を争うかという大きなところでした。

「どうしてって……うちはそういうことをしないのが主義なの。そしてそれが売りなの」

トップのあげはさんが、ため息混じりにそう言いましたが、わたしは耳を貸しませんでした。だって、そうでもしなければわたしはトップに立てないのだし、ベッドの後のお客様はお金を弾んでくれます。

「とにかく、金輪際しないでね」

わたしはやっぱり耳を貸しませんでした。


二日前。

「おい、いるんだろ!?金払えよ!」
「……」

家賃を三ヶ月停滞していました。たかだか一ヶ月六万という額でしたが、お店の女の子に負けじとブランド品を買い漁る毎日だったわたしには、たかだか六万を毎月支払うには少々痛手でした。見兼ねた大家さんが、どうやら、取り立て屋を呼んだようです。

「おい!開けろ!」
「……」

耳を塞ぎうずくまっていました。それでも手のひらを通り越し鼓膜に届く乱暴なドアを叩く音は、しばらくやむことはありませんでした。わたしはただ、耳を塞いでうずくまっていました。


一日前。

「また今日、枕営業をしたわね」
「……してません」
「ネタはあがってるのよ」

同伴で連れてきたお客様が、うっかり口を滑らせたようでした。ついでに閉店後のテーブルに叩きつけられた写真を見て、誰かスパイでもいたのだなと思いました。

「これ、明らかにラブホから出てきてるわね」

鼻をあかしてやったように得意げに言ったあげはさんが、それは満足そうに続けてこう言いました。

「あなた、今日でクビね。ライバルだと思っていたけど、残念だわ」

まるで思っていたとは感じられない侮蔑の眼差しを向けて、あげはさんによって、わたしはクビになりました。

うちに帰って鏡を見たなら、明るくなったそこに映るわたしは、まるで知らない人のようでした。艶のない、けれど、やたらとケバケバしく巻かれた髪。きらきらと撒き散らされたラメが、滑稽さを増長させていました。薄手のコートの内側から覗くスリップワンピースは、いやらしく毒々しい赤を主張していました。がりがりに痩せ細った腕と、滑らかさが失われた肌と、パットを入れなければ垂れ下がってしまう貧相な胸と。見るに耐えませんでした。見るに耐えない、見るに耐えない、耐えない耐えない耐えない耐えない耐え切れないわたしじゃないわたしじゃ、わたしじゃわたしじゃわたしじゃわたしじゃわたしじゃない。

そうして、わたしは死にました。この東京という街で死にました。誰にも気づかれず、鉄とコンクリートに埋葬されて死にました。ああどうして、ああ、ああ、どうしてですか。何がわたしを殺したのですか。





_20090717

東京埋葬



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