「さてお嬢さん、どうですかね?」 「……どうですかねっていわれても」 はてさて、私は心底困っていた。 こんなに困ったことはなかろうという程に。 彼……といっていいのかどうか。 わからないが、ひとまず彼とする。 彼とのやり取りは随分前からこんな感じで、言葉を濁す私に、ぐいぐいと迫ってきていた。 「据え膳食わぬはなんとやら、ですよ」 素知らぬ顔して、だいぶ的を射たことをぬかしているが、的を射すぎているからか、どうにも反応が返しにくい。 「そうはいわれても……私としても困るというか」 わざとらしく眉尻を下げて見せれば、案の定、わざとらしいと言い放たれた。 「お嬢さん!」 ばんっと床を叩かれ、大きな声で彼はいった。 「鴨がネギ背負ってるんですよ!」 確かにそうではあるが。 そう、彼は鴨。 確かにネギを背負っていて、私の目の前にいる。 いいたいことは痛い程わかる。 わかるが。 「……私、鴨食べられないので」 他をあたって欲しいです。 おしまい。 _2007 鴨がネギ背負って © 陽気なN |