人間の根本原理を考えるのが哲学だ。人間の大元の通理が根本原理だ。根本原理だ何て言うけれど、要は日常的な感情の学問では無いだろうか。そんなに難しく考えている訳では無いけれど。


「はあ……」


 取り敢えず、溜め息が出てしまうのは仕方無い。


「久々にうちに来たと思ったらすぐ寝ちゃうなんて、どうなのよ」


 私達はお互いに忙しい。三十路前にもなれば、それなりの仕事も責任も背負うことが多くなる。プライベートをそっちのけにしたい訳でもしている訳でも無いけれど、それでもおざなりになりつつあるのは間違い無い。
 隣ですやすやと寝息を立てる愛しい男に、視線を落とす。後ろめたさと、多少の非難が混じる視線を。見詰めていれば、閉じた瞼がふっと開いた。薄く覗いた瞳が、ぼんやりと遠くで焦点を結びつつある。暫く宙を彷徨ってから結ばれたであろう焦点をそのまま私に移して、彼が口を開いた。


「……寝てた?」
「……寝てましたよ」


 嫌みと言うよりは呆れに近い声でそう応えた。


「……ごめん」


 思い出したかの様にそう呟いた彼に、思わず笑った。それが本音であろうことは、何となく解った。


「気にしてないよ。疲れてるんでしょ」


 優しくその髪を撫でれば、逆らうことなくそちらに意識を引き摺られて行く様が可笑しくて、無意識に唇が柔らかな孤を描く。


「……愛してるよ」


 朦朧とする意識の端で彼が零した科白は、聞き間違いでは無い筈。


「……根本原理、哲学、ねえ……」


 呟きと共に私が零した笑みは、柔らかかったに違い無い筈。




_2007

愛を哲学する



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