05








「何・・やってんだぁ…?」



我に返ったスクアーロがなまえの背中に声を掛けるが返事は無い。
こちらに振り向く様子すらもない。

スクアーロが思っていたよりもずっと早く任務が終った。
この分だと夜明けまでにはアジトへ戻れそうだ。
ここに来る前に見て来た屍達…どうやら、思っていた以上に、なまえはずっといい戦力らしい。
いつも、今夜のようにスムーズに仕事を終えているのだろう。

しかし、なまえがアジトへ戻ってくるのは、長期を除けば、いつも朝か、翌日か…。
こいつは、いつも終わった後、アジトへ戻るまでの時間、今みたいにずっとそこに佇んでいるのだろうか…。


そんな事を考えながら、スクアーロは機嫌が悪そうに、返事をしないなまえの元へ大股で歩く。


「ゔお゙ぉい!用が済んだら、とっととずらかるぞぉ!」


そう腕を掴み、強制的にこちらに振り向かせたスクアーロは、なまえの表情に思わず自分の目を疑った。




「なっ…んで泣いていやがる。」


なまえは静かに月を見上げて泣いていたのだ。


月の光に照らされて、虚ろな目から流れるその涙は真珠のようで、思わず綺麗だなんてスクアーロは思ってしまった。

茫然としているスクアーロを確認した後、なまえはゆっくりと目を閉じた。
暫くの沈黙後、そっと目を開く。

もう、その目に涙はなく、虚ろな影も消えていた。


『…だから、一人がいいのに…。』


ボソッと呟き、スクアーロの腕を払うと、カツカツとブーツを鳴らし出口の方へと歩いて行く。


「お゙、ゔお゙いっ!」


『なによ!とっととずらかるんでしょう?』


無表情に言い放つその見慣れない表情に、スクアーロは続く言葉が見つからなかった。












待機させていた車に乗り込み、二人は、つい何時間か前に通った道をまた戻る。
車内では、行きと同様、特に会話もなくなまえは流れる風景をぼんやり眺めていた。

スクアーロは時折、そんななまえを横目に、しばし黙考する。


普段、自分や他の者が見るなまえは、生意気な所もあるが、中々気が利く一面もある。
部下もなまえを慕っているし、ベルなんかとじゃれあう姿はまだまだガキだ。
実際、外見も東洋人のせいか、実年齢よりも幼く見える。
女だてらに暗殺集団、さらには幹部に身を置いているからか(どうかは分からないが)、まぁ、あまり女らしいといった印象も無い。
色気で仕事をしなくても、充分な実力があるのは、今日の任務で伺えた。


…だからだろうか。
名前を呼べと言った艶っぽい表情も、月を見上げながら、虚ろに泣く表情も普段のなまえからは想像できないもので。
初めて見る、なまえの表情に、正直戸惑った。



「(こいつでも、あんな顔するんだなぁ…)」


そうスクアーロが思った時、


『止めて。』


なまえが運転している部下へそう言った。
不思議に思っているスクアーロに、


『先に帰ってて。ボスへの報告は、任せた。』


そう言い残し、車を降りる。


「ゔお゙ぉい!」


スクアーロが声を掛けた時には、なまえの背中はもう小さくなっていた。


「チッ…!(意味わかんねぇ)」


今日はもう何度目か分からない舌打ちをして不機嫌そうに、運転席を見る。

こいつは、なまえ直属の部下だ。よく、任務へ同行させている。


「お゙ぉい゙!あいつは、いつもああなのかぁ?」


ドカッ!と運転席を蹴り上げながらスクアーロが尋ねると、多少ビクつきながら、焦ったように部下が答えた。


「は、ハイッ!!い、いつもは、もっとお戻りが遅いのですが…。今日は、スクアーロ隊長とご一緒だったからでしょうか。しかし、たまに、早く任務から戻られて、今日のように、何処かへお寄りになる事もあります。」


「そうかぁ…。」


そう力無く言葉を溢し、なまえが言う通り、先に帰ろうかとも思ったが、彼の頭に過るのは、今まで見た事のなかったなまえの表情で…。


「………。」


スクアーロは少し考えて、自身も車から降りた。


「あ、あの…?」


「てめぇは、どっか適当な場所で待機してろぉ。」


不安げな部下に言い残すと、スクアーロはなまえの消えて行った方向へと足を向けた。









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