04
勢いよく談話室を飛び出したなまえは、慣れた手付きで、自分の部屋で準備をしていた。
度重なる任務。
それだけでも、うんざりするのに、ボスはスクアーロと行けと言う。
『糞ボスめッ!』
本人の前で、絶対に言ったり、思ったりも出来ない事をブツブツ呟きながら仕度を終えた。
さっさと終わらせて、ゆっくり休もうと、足早にエントランスへと移動して、待機している車に不機嫌たっぷりで乗り込む。
と、そこには見慣れた銀白色。
『…来るなって言ったはずだけど?』
「俺の任務だからなぁ。文句なら糞ボスに言え。」
『わ・た・し!の任務よ!とっとと降りて!』
「ゔお゙ぉい!早く出せぇ!」
スクアーロはなまえの言葉を無視して、運転席を蹴りあげた。
慌てた隊員がサイドブレーキを下ろしアクセルを踏み込む。
『チッ…。』
走り出した車になまえは諦めたのだろうか、不機嫌そうに舌打ちをして黙り込み、窓の外の流れる風景へと目をやった。
終始無言のまま、車は目的地へと到着した。
今、なまえとスクアーロがいるのは、今夜の標的の屋敷が見渡せる木の上。
今回の任務は小さなファミリーの懺滅。
ちょっとした反乱分子らしい。
「情報より数が多いなぁ…。俺はそこから、突っ切る。その間にお前は…」
スクアーロが現場を確認し作戦を伝えようとすると、
シャランッ…
と音がして、なまえが今朝話題になっていた指輪を慣れた手付きで首から外していた。
すると、その指輪をソッと左手の薬指へはめ込みそのまま祈りをささげるようにそれを左手ごと右手で包みこんでいた。
「…なんだぁ?願掛けでもしてんのかぁ?」
そう声を掛けられた方をなまえがキッと睨みつける。
『うるさい。スクはここに居ればいい。作戦なんていらない。最初から一緒にやる気はない。』
彼女は、そうサラリと言い放つと、音を立てずに木から飛び降りた。
間を空けず、スクアーロが突入しようと思っていた場所から、断末魔のような叫び声が天へと響いた。
それを聞き付け、バタバタと辺りが騒がしくなっていく。
「チッ!馬鹿女がぁ!」
そう、苛々を募らせた声を吐き出すと、スクアーロはなまえに行かせようと思っていた方向へと飛び去った。
ザシュッ!
「ぎゃぁぁあああ!!!」
「どいつもこいつも、雑魚だらけだなぁ!」
床に敷かれた赤絨毯を、さらに紅く染め上げながら、スクアーロが剣を振るう。
だいたいは片付いた。
後は、メインディッシュ。ここのボスを頂くだけ。
「そういやぁ、なまえはどうなったんだぁ?」
ふと、一緒に来ていた同僚を思い出す。
長い廊下と階段を駆けるスクアーロの目に映るのは、もう動くことはできないであろう、そこら中に転がる肉塊と化したもの。
この様子だと、上手くやっているようだ。
「あそこかぁ!」
予め、頭に叩き込んでいた屋敷の構造。
本日のメインを頂く為、スクアーロが勢いよく扉を開く。
今日の彼は機嫌が悪い。
ボスの暴力や後輩の可愛げの無さはいつもの事ながら、加えてなまえのあの態度。
その発散に付き合って貰うぜぇ!っと、どう痛ぶってやろうかと標的を捉えるべく彼は部屋を見渡した。
そんなスクアーロの目に飛び込んで来たものは、床に座り込む本日のメインとその目の前に佇むなまえの姿。
「…先を越されたなぁ。」
もう今夜は有り余るストレスを発散出来そうに無いとため息を付く。
さっさと終わらせろ。
そうけしかけようとしたスクアーロの動きが止まった。
標的となまえを包むその異様な雰囲気を察知して。
なまえは一瞬スクアーロを見たが、その存在など否定するかのように直ぐに視線を目の前の男に戻す。
この部屋で行われているもの。
それは昨晩も行われていた、なまえの習慣化しているその行為だった。
「くそっ…ヴァリアー…!」
『私の名前はなまえ。』
そう言い、なまえは男に近寄る。
「何言ってやがる!ボンゴレの犬が!!」
男が、床に転がる拳銃に手を掛けようとした瞬間、なまえが薙刀をその手に突き刺し動きを止める。
「ぐっ…あぁぁああ!!」
男の悲痛な叫びが、室内にこだました。
『私の名前はなまえ。』
再度そう言いながら、なまえは男の右手を踏みつけ、薙刀を引き抜く。
すると血が滴るそれを、そのまま男の首に突き付けた。
「ぐっ…。」
『さぁ、呼んで私の名前…。』
そう言ったなまえの顔は艶っぽく、まるで目の前の男を誘っているようだった。
そんな雰囲気には似つかわしくなく、薙刀が男の首にプツリと刺さる。
血がツーっと男の首筋を伝う。
男は観念したように、恐怖の声色で呟いた。
「な…なまえ…?」
『そう。よくできました。』
「ガッ…」
また今夜も、紅い大輪を咲かせ、もう呼吸をしていない男になまえが囁いた。
『地獄で彼によろしく。』
そうして、自身の左手薬指に光る銀色にそっと口付を落とす。
今夜もまだ満月。
なまえは窓の方へ歩み寄り、薙刀を肩に立て掛けそっと月を見上げる。
そのまま月に魅了されたかのように彼女は動かなくなってしまった。
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