06




スクアーロが軽快に木々の間を飛び越えていくと、其処には、ぽっかりと空いた小高い野原が広がっていた。
真っ暗の中、目に眩しいくらいに満月が光を放っている。
その光の下、ポツリと一人佇むなまえの姿を見つけ、スクアーロはとっさに気配を消した。


「(また、月でも見て泣いてやがんのかぁ?)」


なまえに気付かれないであろう、ギリギリの場所で脚を止める。
相手が暗殺者ともなると、自分の存在を気付かせないようにさせるのも中々至難の業だ。

衝動的に後を追い、見つけたはいいが…。

あの表情を思い出すと、どう声を掛けるべきか思い悩む。

暗殺集団に身を置く者達には、それぞれに事情や、はたまた狂気があるだろう。
余計な詮索等をせず、ただ任務を確実に遂行する。
それが道理だ。

今朝の、指輪を見つけられた時の反応や、今この瞬間も、なまえは自ら距離を置き、一人になっている。
余計な詮索はされたくない証拠だろう。

ただ、どうしても気になる。

放っておけないと言った感情がスクアーロに芽生えてしまっていた。
別に自分は、お節介な性格ではないし、面倒事も嫌いだ。
他人に何があろうが、どうであろうが、関係はない…はずなのだが。

また、気になる感情とは別に、苛立つ感情もあった。

何故、あいつは一人で伏せている?
俺が近くに居たにも関わらず―。


「はっ。(なんだその考え…)」


思わず、自分の思考に自分で失笑する。
自分の考えや行動が自身でも分からないまま、スクアーロは、離れた所からただなまえをじっと見つめていた。














あれから何時間経過しただろうか。
二人は、まだそのままの状態であった。
段々と、月もその姿を消そうとしている。

スクアーロは漸くなまえの元へと歩み寄った。


『先に戻れって言ったのに。』


そんななまえの声を聞きながら、隣に立つ。


「お前、任務の度にこうしてるのかぁ?」


『さぁ、ね?』


そう返したなまえの表情は、なんだか寂しそうで。
スクアーロは思わず、抱きしめようと手が伸びそうになってしまった自分に驚きつつ、その手を固く結んだ。


『さて…と、戻りますか。』


「もういいのかぁ?」


『今日はなんだか、お節介な鮫がいるからね。』


と皮肉を込めて、クスリとなまえが笑う。
それはいつもの表情で、スクアーロは安心した。
しかし、それと同時に複雑な気持ちにもなった。


「テメェがなんか、らしくねぇからだろぉ。」


『…よし!スク!競争!!』


「はぁ゙?」


その話をしたくないのか、突拍子もないことを言い出すなまえ。
そう言うや否や、いたずらっぽく笑い、走り出した。


「…ったく。ゔお゙ぉい!勝手に事進めてんじゃねぇ!」


『スク早くぅ〜〜!』



月がその姿を消すとともに、うっすらと周りが白やみ、朝を迎える準備を始めた。






.
.
.







「やあ、スクアーロ。なまえとの任務はどうだった?」


スクアーロが、談話室にやって来ると、マーモンがレモネードを飲みながら尋ねてきた。

あの後、理不尽に始まった競争とやらに振り回され、待機させていた車に乗り込みアジトへと戻った。

ボスへの報告は任したって言ったよね♪っと、一方的に押し付けられ、眠い身体を何とか起こし、報告書をあげ、スクアーロが彼のベッドに沈んだのは、もう陽が上った後だった。


「あ゙ぁ…思ったよりは使える奴だったぞぉ。」


「ふぅん。スクアーロが褒めるだなんて、結構なものだね。」


二人が話題の中心人物を見ると、とりゃぁ〜!とベルと格闘ゲームで盛り上がっている。
ああしていると、ただのガキにしか見えねぇのになぁと思いながら、スクアーロは、ソファーに腰を掛けた。


『ぎゃぁ!やられた!!』


「しししっ。なまえ弱ッ。」


『弱くないもん!ベルがマニ過ぎるんだ!!』


「マニ過ぎって何言っちゃってんの?俺、王子だぜ?」


『ゲームマニア王子だね♪』


ベルの手にナイフが握られて、今度はTVゲームではなく、リアル格闘ゲームが行われそうになる。


「ゔお゙ぉい!ここで暴れんなぁ!ただでさえ、備品がすぐ壊れるんだウチはぁ。」


「まぁ、ボスを筆頭にだけれどね。」


スクアーロが今にも暴れ出しそうな二人を一喝し、マーモンが付け足した。

なまえもベルも冗談でふざけていただけなのか、スクアーロの一喝で、ソファーの方へとやって来た。


『スク、起きたんだね。報告無事すんだ?』


「あ゙ぁ。誰かさんに押し付けられたからなぁ。」


『だって、報告書スクアーロが作った方が早いじゃん。』


「ったく。先輩をもっと敬いやがれぇ!」


『あぁ〜はいはい。カス鮫先輩。コーヒーでよろしいですか?』


「カス鮫は余計だぁぁあ゛!」


そのやり取りを見つつ、ソファーに腰を下ろしたベルが悪態をつく。


「カスザメうるせぇ!」


と皮肉を込めて言うと、


『カスザメうるせっ!』


と、なまえが真似して続き、ベルと顔を見合わせ、しししっと笑う。


「クソガキ共がぁぁああ゙!」


『クソガキとは何さ!もう成人したもんね!ガキにあらず!』


「だったら、もっと大人の女らしく振る舞えぇえ゙!」


そう返されると、いーだ!と歯を見せながらも、なまえはスクアーロのコーヒーを淹れに、部屋の奥へと引っ込んで行った。


『お!雑巾発見!』


「ゔお゙ぉい!飲めるもん淹れて来いよぉ゙!」


『チッ!勘のいい奴め。』









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