17
窓から差し込む月の光を背に、なまえがスクアーロの方へと歩みを進める。
『スク、ありがとう。帰ろうか。』
「お゙…お゙ぉ。」
呆気に取られて、スクアーロは思わず返事が詰まってしまった。
待機させた車への道を、二人で歩く。
「ゔお゙ぉい、なまえ。…いいのかぁ?」
スクアーロが意を決してなまえに問いかけると、小さく笑いながら彼女がスクアーロの方へ振り返る。
『何がさ?』
「あ゙ぁ?何がって…」
『本当、おせっかいな鮫だね。』
「ゔるせぇ…。」
お前限定だ。と言う言葉を飲み込み、スクアーロが、数歩前を歩いているなまえの隣へと移動する。
『しっかり、お別れしたから、もういいの。』
そう言ったなまえに、夜風がそよそよとあたり、髪が靡く。
「……返事、聞いてもいいのかぁ?」
ずっと聞きたかったけれど聞けなかった言葉をスクアーロが口にする。
なまえがスクアーロを見ると、心なしか、彼の顔が赤いように感じた。
普段、余裕ぶったクールな表情からは想像できない彼に、つい悪戯心が擽られる。
『返事?なんの?』
「ゔお゙ぉい!」
『クスッ。嘘うそ。ごめんごめん。』
なまえが楽しそうに笑った。
『でも、言ったじゃない。私は、スクをそういう対象として見た事が無いって。』
そう言うと、なまえの肩にスクアーロの手が触れ、彼女のその歩みを止める。
なまえの瞳に映った銀白色が近い。
触れるだけのキスをされ、スクアーロの真剣な表情がなまえの視界を埋め尽くした。
「…今から見ろって言っただろぉ。」
『そう…だね。今から見てみようかなぁ。あ、車発見!』
「ゔお゙ぉい…」
『ぶはっ、何情けない顔してんのさ。』
必死なスクアーロになまえが堪え切れずに吹き出した。
あぁ、本当に、お前にかかっちゃ、俺もただの男だなとスクアーロが思っていると、急に襟元が引っ張られる。
『スク、これでも感謝しているんだよ。…背中押してくれてありがとう。』
なまえがそう言うと、上半身が傾いたスクアーロの頬に、優しい感触とリップ音。
彼が放心している間に、なまえは待機していた車に駆け寄り、隊員に出迎えられている。
「ったく…。馬鹿女がぁ。」
そう呟きながらも、顔が綻んでいるスクアーロが、ふと、振り返ると自分を照らす満月。
一途に死んだ奴を思い続けていたなまえが、急に心変わりなんてのも、難しい話かもしれない。
だが、今夜やっと終止符が打たれた。
それにもう、チェックメイト寸前だろぉ?
二人に与えられた時間は充分過ぎる程長い。俺は当たり前のようになまえとの時間を過ごして行ってやる。
「悪く思うなよぉ゙。」
月を見上げそう呟いたスクアーロの髪を夜風がキラキラと靡かせる。
月は変わらず優しい色で彼を照らしていた。
『スクアーロ!置いてくよ〜!』
「お゙〜。」
振り返り歩みを進めると、前に見えるのは愛しい人。
まだまだこれから。
二人の恋は始まったばかり―。
Fin!
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