13
行きと同様、帰りもすっ飛ばし、忙しない一日を終えた。
あれから、ヴァリアーのアジトに急いで戻り、標的の男は救護室へと送られた。
そのままザンザスに事を報告しに行くと、まあ予想通り、俺は、ウイスキーが入っていたグラスを投げつけられ、なまえには分厚い本が飛んできた。
なまえはちゃっかり本を受け止めていやがったがなぁ…。
男の命をもし繋ぎ止めていなかったらと思うとゾッとする。
その様子を見て、愚か者!と言っているようなレビィの目が胸糞悪い。
頭から被ったウイスキーを落とす為、シャワーを浴び、火照った上半身をそのまま、髪を拭く。
今日は全く持って散々だったと、一日を振り返っていると、ノックの音が聞こえた。
「開いてるから、勝手に入れぇ。」
声を掛けると、任務に出掛けている間に直されたのだろう扉から入って来たのは、予想通りの顔だった。
『あ、ごめん。お風呂上がりだった?』
「いや、かまわねぇ。」
と返事して、ミネラルウォーターを冷蔵庫から取り出し、そのままベッドに腰掛ける。
『ごめんね…。頭痛かった?』
「…不本意だが、慣れている。気にするなぁ。」
あれから時間も絶ったからだろうか、なまえも落ち着きを取り戻しているようで、素直に今回の任務における自分の不備を反省しているようだった。
『それで…その…』
そう言うなまえの言葉で、言いたい事を察知し、ベッド脇に置いてあるチェストからシャランッとなまえが気になってしょうがないものを取り出す。
「これだろぉ?」
それを見た途端、ほっと安心したような顔をするなまえ。
そんなにこいつが大事なのかとため息が出そうになる。とっとと捨ててしまえばいいのだ。過去の引き摺る思いと共に。
「ほらよ。」
その忌々しい指輪を投げる。
それを受け取ろうとしたなまえの顔がみるみる不機嫌そうになった。
それもそのはず、チェーンを通した指輪は、確かになまえの方へ投げられたが、チェーンの先には、俺の指。
指輪はチェーンに引っ張られ、そのまま宙を回転し、また俺の手の中に収まる。
素直に返すと思ったか?
これを受け取ったらきっと、ホッとした顔をしてその表情を次には笑顔に変えて、ありがとうなんて抜かした挙句にお前は直ぐに私室へ戻って行くんだろう?
冗談じゃねぇ。
そんな俺になまえは深いため息を落とした。
『もういい加減にしてよ、スクアーロ。返して。』
不機嫌なのはこっちだ。相変わらず、俺はこいつの瞳には映っていない。
目の前に居るのは俺なのに。
俺の顔を見もせず指輪の動向を伺っていやがる。
苛々が溜まって行く。最近俺を困らせてばかりの感情が沸々と高ぶって行く。
「…キスしたら、返してやってもいいぜぇ?」
こんなガキ臭ぇ事言ってしまったのも、全てはそんな俺らしくねぇ感情のせいだ。
『はぁ!?』
指輪の行方をずっと追っていたなまえの瞳が俺の目を睨む。
漸く、俺の目を見やがった。
そのままずっと俺だけを映していればいい。
ここになっと、自身の唇を指し示すと、なまえが呆れたように言った。
『あ〜もう、いいから、そういうの。スク、別に女には困ってないでしょう?』
「あ゙ぁ?まぁ、確かに選り取り見取りだなぁ。」
煌びやかに着飾って、俺の顔色を伺う女に今は興味はないが、そう言うとまるでガキを宥めるような顔をして、なまえは俺の横、ベッドの端に腰掛けた。
こいつは、どこまで無防備なんだ?
風呂上がりの上半身裸の男と部屋で二人きり。さらにはベッドに腰掛けるなんて、何かあっても文句は言えない。
それとも、ただ単に、俺が男と意識されていないからだろうか…。
『喜ぶ子はいくらでもいるでしょう?そういう子に相手にして貰いなよ。』
「あ゙ぁ?」
『だ・か・ら!昨日も今日も、ちょっと、酔っちゃって、アハンな気分になっちゃって、思わず、そこに居た私を口説いてしまった、一夜の過ち的な!』
昨晩、なまえが考え出したスクアーロの思考をそのまま言葉にしてみる。
すると若干、隣からどす黒い空気が流れて来た気がするが、なまえは気にしない事にした。
「…俺は、今は飲んじゃいねぇぞぉ?」
『ウイスキー頭から被ったじゃん。』
「誰のせいだぁ?」
『ゔ…。だから、それはゴメンって。』
「お前…俺が言った事理解してんのかぁ?」
『え?だから、スク、溜ってるんでしょ?』
「………。」
計画は崩れ、思うがままに行動してしまったが、何にも伝ってねぇ…。
それどころか、こいつは、俺がただの欲求不満男だと思っていやがるのか?
そう心外と共に、苛立ちがスクアーロに押し寄せる。
すると、元来、気の長い方ではない彼が、ガバッっとなまえをついに押し倒し、なまえの両手首を右手でギッチリと掴み上げた。
『ちょっ…。もう、何す……ンッ!?』
昨夜同様、有無を言わさず、強引に唇を奪う。
だが、少し違うのは直ぐには離れない。
荒々しくでもゆっくりとなまえの唇をスクアーロが堪能していく。
ふあっと、呼吸が苦しくなったのか、口を少し開けた一瞬をスクアーロは見逃す事はなく、ぬるりと、自分の舌を侵入させた。
『ン゙―――――!』
なまえは其処から抜け出そうと必死でもがくが、両手はもちろん動かない。
脚も、スクアーロの両脚でがっちりと固められている。力では敵わない。
舌噛んでやる!と、ガチッ!となまえがやってみたが、その感触は想像したものと違い、自身の歯がぶつかり合っただけだった。
しかし、そのお陰か新鮮な空気がなまえに与えられ、彼女は肩で息を整える。
「――ッぶねぇ゙…。」
舌を噛まれる前にそれを回避したスクアーロが呟く。
『ハァ…ッ。何すんのよ!離してよ!』
「離さねぇ。」
『もう!他の女に相手して貰ってよ!馬鹿じゃないのっ!!』
「……それはできねぇなぁ゙。」
『はぁ!?』
なまえがスクアーロを睨みつければ、額に優しい感触とリップ音。スクアーロが真剣な眼差しでなまえを見つめる。
なまえは思わず、息を飲む。
普段見る事はない、スクアーロのその雰囲気に飲み込まれてしまいそうだった。
「好きだぁ…なまえ。」
ドクンッとなまえは自分の胸が波打つのが分かった。
『えっ…?』
「Ti amo da impazzire.」
そう囁いて、スクアーロは、今度は優しく唇を重ねた。
Ti amo da impazzire.
―狂おしい程に愛してる―
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