12
ズダダダダッ!となまえが走ってやって来たのはスクアーロの部屋の前。
走って来た勢いそのままで扉に思いっきり飛び蹴りを喰らわせると、部屋の奥へと扉が無惨にもふっ飛んで行き、寝ていたスクアーロが飛び起きる。
「な゙っ…な゙んだぁっ!?」
『ゔお゙ぉぉい゙!カス鮫ッ!!とっとと起きろ!任務だクソボケッ!!』
起きぬけで事態が掴めないスクアーロに突如襲来する怒号。
自分の十八番を奪われた事に気付きもせず、慌てて、部屋の入口へ顔を向ける。
扉を壊し怒鳴りあげた張本人は、ふんっ!と鼻を鳴らし、その場を去って行った。
取り敢えず、よく分からないが、"任務"と言う言葉だけにはしっかり頭が反応し、スクアーロは準備に取りかかる。
顔を洗い、寝呆けた頭を叩き起こし、隊服に身を包んだ。
「さっきのなまえだよなぁ゙…?」
そう思いながらも、急いでエントランスホールに向かい、屋敷の外に出る。
だが、なまえの姿は無い。
すると、そこに居たなまえの隊員の一人が恐る恐るスクアーロに任務書が入った封筒と、一枚の紙を手渡した。
それを受け取り目をやると、
【遅せぇ!カス鮫死ね!】と殴り書きされた文字。
「あ゙ぁ゙!?なんなんだぁ?おい!なまえは?」
「は、はいッ、先に行くと出られました!」
「な゙にぃ?チッ!おい!さっさと車出せぇ!」
と、スクアーロの怒鳴り声がエントランスに響き渡った。
もっと飛ばしやがれ!と、部下に文句を付けつつ、スクアーロが先程の封筒を見る。
が、何故か開けられた形跡がない…。
スクアーロは不安に思い、焦るように車を走らせている部下に尋ねた。
「ゔお゙ぉい、なまえは任務書ちゃんと見たのかぁ…?」
「そ、それが、今日はなんだかなまえ隊長の機嫌がすこぶる悪く、嵐のように去って行かれて…。任務先はGPSに送られてきているので、そのままその場所に向かったようでして…。」
パサリッ…とスクアーロが書類を捲り、ある頁数で目を見張る。
「……ゔお゙ぉい!もっと飛ばせぇぇえええっ!!!!」
「ひぃぃ!!」
スクアーロを乗せた車は、カーチェースさながらに突っ走って行った。
スクアーロが、任務場所に到着すると、其処はもう、血の臭いが充満していた。
焦る気持ちを抑えきれず、スクアーロが走る。
一方なまえは、今日の苛々を、見事なまでに任務に反映させ、目に映るもの全てを壊し続けていた。
指輪が無くても、いつも行ってきたそれは、もう習慣化していて、最後の一人に刃を向ける。
今回の標的は中々しぶとく、未だに虚勢を張っていた。
『…いい加減にして。あなたの死は確定しているわ。』
なまえは標的に不敵な笑みを浮かべ、まだ死なない程度に痛みを与えて行く。
標的にされた男は至る所から出血し、段々と自分の体温と一緒に流れて行く己の血液に、死を覚悟していた。
『さぁ、もう一度言うわ。私の名前は―――「待てぇ!なまえッ!!!」
お決まりの台詞を彼女が言い放とうとしたその時、凄まじい勢いでスクアーロが部屋に飛び込んで来た。
『へっ?』
予想だにしない出来事になまえが驚くと共に手元を狂わせる。
薙刀が男の首に突き刺さった。
「そいつには聞き出さなきゃいけねぇ事があるんだぁ!まだ殺すなぁっ!!!」
『なっ!?!?』
その言葉を聞き、慌てて標的の男を見る。
スクアーロの大声のせいで思わず刺してしまったが、手元が狂ったせいか、頸動脈には至っていない。
だが、安心はできない。
それまでのなまえの拷問に近い苦痛と今の一撃で男はもう虫の息だ。
『うわぁぁぁあああ!!!ちょっと!あんた!気合いで持ち堪えなさい!!私がボスにかっ消されるじゃないっ!!!』
今まで殺そうとしていた標的の胸倉をつかんでなまえが必死にそう叫ぶ。
「ゔお゙ぉい!やめろぉっ!そっとしとけぇ!!おい!救護班聞こえるか!今すぐ!さっさと来やがれぇっ!!!」
スクアーロが慌ててそれを制止して、出来る限り冷静に救護班に無線連絡を取る。
『うわぁぁああ!生き返れ!蘇れ!死ぬなぁぁあああ!』
「まだ死んでねぇ!お前は離れてろぉ゙!」
程なくして、任務の際に来るなと言っても、いつも同行している救護班が到着し、標的の男を治療していく。
普段、あまり活躍の見せ場が無い彼等だが、この時程、手際よく作業をしていく彼等が頼もしく見えた事は今まで無かっただろう。
彼等も、まさか標的の治療をする事になるとは思ってもみなかったはずだ。
『……なんとか、私の命は繋がったわね。』
安堵すると同時に緊迫していた身体の力が抜けたのかなまえがその場にへたり込む。
『(あぁ、なんかデジャブ…)』
昨晩から、へたり込んでばかりだ。となまえが思っているとスクアーロが彼女の元へやって来た。
「ゔお゙ぉぉい゙!一体何考えていやがるっ!!」
『……ごめんなさい。』
「これであいつが死んでたら、ごめんなさいじゃ、済まねぇぞぉ。任務書くらいきちんと確認しやがれぇ…。」
スクアーロがなまえの隣に座り込み、自分の頭をくしゃりと抱え、ため息をつく。
ヴァリアーの優秀な救護班のおかげで、なんとか一命取り留めた男を確認し、彼もまた一先ず安心したのだろう。
『うぅ…。』
先程まで、沸き上がるムシャクシャした感情のままに大暴れしていた勢いは無く、なまえが俯く。
「何をそんなにイラついていやがったんだぁ?」
スクアーロが隣で伏せているなまえの頭にポンッと右手を乗せながら尋ねた。
すると途端になまえが顔を上げ、スクアーロを睨みつける。
『なによ!元はと言えばあんたのせいよ!!バカァッ!』
と叫び、彼女の頭上に置かれたスクアーロの手を払った。
「あ゙ぁ?何言って……」
言いかけて、昨晩の事を思い出すと、スクアーロは不敵にふうん?と笑みを浮かべた。
折角、不安を余所に、普通に接せれていたのにも関わらず、自分で昨夜の事を思い出すきっかけを作ってしまい、なまえは自分の顔が真っ赤になって行くのを感じ、言葉にならない声を漏らす。
『(何!?そのムカツク笑み!!余裕ぶって!くそっ!なんか気まずいし!!あぁ!)』
今日は思考がグルグルと忙しい。もう自分でも訳が分からない。
「っつ〜か、指輪に願掛けするような事とかしてたし、指輪が無ぇと、もしかしたら任務とかまともにこなせねぇのかとも思ったが、ばっちり殺りまくってんなぁ。」
スクアーロが上機嫌に笑う。
『ハッ!指輪!もしかしてスクが持ってんの!?』
「さぁな…?」
『持ってるんでしょう!返しなさいよ!このカス鮫ッ!!!』
「無くても大丈夫なら、いらねぇだろぉ。」
『〜〜〜〜〜〜〜ッ!』
沸き上がる苛々が復活して、なまえは血で汚れた薙刀をスクアーロに向けた。
『返して!』
なまえはこの時、初めて仲間に殺気を向けた。
だが、そこはスクアーロ。一つも怯まない。
が、彼は別になまえと殺り合うつもりはない。
「生憎、今は持ち合わせていねぇ。」
そう静かに諭すようにスクアーロが言うと、なまえは、チッ!と薙刀を下げた。
「あ、あの…。」
その様子を見ていたのか、遠慮がちに救護班の一人が声をかける。
『……何?』
その隊員に行き場のない怒りをぶつけるようになまえが睨みつけた。
「応急処置が済みましたので、あとは屋敷に戻ってからの処置になります。」
その言葉を聞き、なまえが立ち上がる。
『そう。よくやってくれたわ。急いで戻りましょう。』
「はいっ!」
隊員と、並んで歩いて行くなまえの背中を見ながら、スクアーロも立ち上がった。
隊員とはいえ、男の隣を歩くなまえを見て、また昨晩のような醜い感情が沸き起こった事に苦笑しながら――。
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