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『あぅ…無い…。』
翌日の、昼前の談話室。
本当は、早朝にでも指輪を探しに行きたかったなまえだが、あのまま眠りについてしまい、目覚まし等は当然かけてはいない。付け加えて、任務もないので誰が起こしに来るわけでもなく。
それでも、昼前に起床した事は、なまえにとっては素晴らしい事ではあるのだが。
「ねぇ、ルッス。無い無いって、なまえはさっきから一体何を探しているんだい?」
マーモンが紅茶をルッスーリアから受け取りながら尋ねる。
その間にも、なまえは、ソファーの周りでクッションを持ち上げてみたり、ソファーの下を覗きこんでみたり、忙しく動き回っている。
「さぁ?談話室に来たと思ったら、ずっとああなのよ。なまえ、紅茶入ったわよ!」
『うぅ〜〜〜無いよ〜〜〜。』
「だからさ、何探してんだよ?」
『ひぃっ!』
ひたすら、無い無いと、ソファーの周りをグルグルするなまえに鬱陶しくなったのか、向かい側のソファーでマーモンと一緒に座っていたベルが、なまえの目線にナイフを投げる。
『もう!ベル!危ない!!』
なまえがそうベルに抗議して、はぁっ…と諦めたかのように、その場に腰掛ける。
ルッスーリアの淹れてくれた紅茶を手に取り、また盛大なため息をついた。
談話室に居るなまえ以外の3人、ルッス、ベル、マーモンが、一体どうしたのだとなまえを見る。
『……チェーンと指輪。談話室に落としたの。誰か見なかった?』
紅茶を一口飲んだなまえが、観念したようにその視線に答えるように言った。
「例の指輪ね!私は見ていないけど…」
と、ルッスーリアが一番に返事をし、ベルとマーモンに視線をやる。
「しししっ。あ〜ぁ、無くしちゃったわけ?」
ベルが面白そうに笑い、マーモンが続く。
「いつも付けているのだよね。絶対に此処に落としたのかい?」
『うん…。昨日の晩、ここで飲んでて…なんとなく外しちゃって。』
なまえは小さな嘘をついた。
スクアーロに外されたと言って、その後の事までバレてしまっては、かなわない。
指輪は無くしてしまうし、スクアーロの事もあるし、なまえは力なく肩を落とした。
「その内、出て来るわよ〜。掃除のメイドさんには聞いてみた?」
『うん、無かったって言ってた…。』
「しししっ。いいじゃん、別に無くても困るもんじゃないだろ。」
「昔の男からの貰い物だろう?いい機会なんじゃない?」
『はぁぁぁ〜〜〜〜〜〜』
ベルとマーモンの言葉に、今日一番の深いため息を吐き出した時、談話室の扉がバンッ!と大きな音を立る。
中に入って来たのは、深紅の瞳をギラつかせる我らがボス、ザンザス。
「んまぁ!ボス♪丁度、紅茶入れた所よ♪」
「どうしたんだいボス?」
そう言うルッスーリアとマーモンに答えることもなく、鋭い深紅がなまえを見つける。
「なまえ!任務だ。今から行け。」
最近平和ボケしていたヴァリアーに久々に訪れた任務。
だが、意気消沈状態のなまえに、ザンザスの言葉が届かないのか、なまえは肩を落として俯いたままだ。
「ちょっと、なまえ??」
「なまえー。ボスが任務だって〜しししっ。」
反応を示さないなまえに、ザンザスが苛立ち、手に持っていた書類を投げつける。
『いだっ!』
「カス鮫連れて、さっさと行け!」
『ゲッ!!!』
カス鮫と言う言葉に反応して、思わず声を上げる。今はその言葉はなまえにとってNGワードだ。
ザンザスは、カスが!と罵声を残し、来た時同様、荒々しく談話室を出て行った。
「うっしっしっ。御愁傷様♪」
「もう!ボスったら。紅茶飲んで行けばいいのに。残念だわぁ。」
「なまえ、早く行った方が身の為だよ?」
続く3人の言葉になまえの感情が沸々と沸き上がる。
こんな状態なのだ。
任務を変わってやるという心優しい奴はここにはいないのか…。
指輪は無いし、スクは意味不明だし、ボスにはカスと罵られ、書類を投げつけられて…。
頭からゆらゆらと煙が出ているんじゃないかと思う。
『なんで…なんなのよ…もぉぉぉおおおおおおお!!!!』
プシューッ!と、勢いのよい煙がついに頭から吐き出したかのように、様々な感情を全て怒りへと変化させたなまえが勢いよく立ちあがる。
『ブッ殺してやる!!』
と気迫たっぷりに言い放ち、談話室を荒々しく飛び出て行った。
「なまえ、何だか荒れているみたいだね。」
「今日の現場は凄い事になりそうね♪」
「しししっ。あの日なんじゃねぇ〜の?」
「んっもう!ベルちゃん!!」
なまえの走り去る音を聞きながら、3人は何事も無かったかのように呑気に紅茶を啜った。
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