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『びっ…ビックリした〜…。』


なまえは自分の部屋に駆け込むや否や、扉を閉めその場にへたり込んだ。











『あ、あはは。なんか、だ、だいぶ酔いが回っちゃってるみたい。』


立ち上がり、スクアーロとの距離を取る。


『よ…酔っ払いは退散してとっ、ととと、とっとと寝ます!』


自分でもよく分からない言動と行動で談話室からそそくさと退室した。
もっと、何か言ったりした気もするが、アルコールでボーッとする頭に、スクアーロのキスと言葉が合わさって、もうとっくに私の頭は容量オーバーしていた。
スクアーロは、止めるでもなく、声を掛けるでもなく、ただじっと黙って私を見詰めていた。
談話室を出て、ある程度静かに歩いた所で、逃げるように走り出し、現在に至る。





『逃げるなって言われたのに逃げちゃったよ…。バカか…私は…。』


もう駄目だ。もう無理。
今日はこれ以上考えられない。
ムリーーーッ!と、ベットにダイブする。
逃げてしまったのだから、もう今日はとことん逃げてしまえ!
そう開き直ると、目を固く閉じて布団を被った。

が、先ほどのスクアーロの顔が頭から離れない。


『(スクが…私の事をスキって……ん?好き?)』


もうショート寸前な思考回路をなんとか働かせ、談話室での出来事を、思い返してみる。

俺じゃ駄目かと、キスをされた。
そして真剣な表情のスクアーロ。


『(…ん?でも、好きとは言われていないような…。)』


そうだ!好きとは一言も言われていない!
だからきっと、酔っぱらいの戯言で、こう、ちょっと酔っちゃって、アハンな気分になっちゃって、思わず、そこに居た私を口説いてしまった、一夜の過ち的な!!

頭の中でスクアーロの行動の真意を解釈していく。
なんだ。そうだよ!私ってば一人で勘違いしちゃって、焦っちゃって恥ずかしい奴じゃん!馬鹿だなぁ〜本当。
そんな事を考えながら、あははっと自分で自分を笑いかけて、一瞬止まる。


『でも…』


あの雰囲気は、とてもそんな感じにも思えなくて…。
はぁっ。とため息をつき、無意識に鎖骨の方に手をやると、いつもの感触がないことに気付く。


『あ!!指輪…。』


指輪を談話室に置いて来てしまった事に漸く気付き、慌てて飛び起きた。
取りに行こうとしたが、まだスクアーロが談話室にいるかもしれないと思うと…


『また後で取りに行こう…。』


なんだかどっと気疲れしてしまったなまえは、再び、ベットに身を沈めた。





.
.
.







「ハァッ…。」


なまえが談話室を出て、走りだした頃、大きな溜め息が談話室に零れていた。


「あ゙〜、何やってんだぁ、俺はぁ…」


そう言うと、スクアーロは天井を仰ぎ見る。

まだ、言うつもりは無かった。
誰が見ても、まだあいつは昔の男を引き摺っているのは一目瞭然。
じわじわとなまえの中に入り込み、そこで一気に畳み掛ける!…つもりだったのに、月しか見ないあいつや、指輪がぶら下がっているチェーンやら、変に嫉妬心を覚えてしまった自分は、気付けばあんな行動に出てしまっていた。
折角の作戦も実行されなければ意味はない。



『スクの目は月みたいだ…』



俺を見ろと言い、見詰めたなまえが無意識だろう、聞こえるか聞こえないかの声量で呟いた言葉。
そう言われて、なまえの瞳に今映っているのは確かに自分なのに、そこに違う奴を見ていやがるようで、腹が立った。
そのまま押し倒して無理やりにでも自分の物にしてしまいたいという衝動に駆られたが、そこは何とか自分の暴走に歯止めをかけた。

しかし、口を開けばとんでもない事を言ってしまいそうで、黙ってただなまえを見詰めた。
すると、急にあははと、いつもの如くちゃらけだし、何んだかんだとブツブツ言い訳を並べ、テーブルや椅子にぶつかりながら、あたふたとなまえは出て行った。


ただ見ているだけしか出来なかった自分が、認めたくはないが、ヘタレ過ぎる。


「あ゙ぁ゙〜〜。」


一度目よりも大きな溜め息をつきながら、天を仰いでいた視線を戻し、俯く。
その視線の端にキラリと光るものが見えた。
その忌々しいものを手に取り、ブラリと目の前にぶら下げる。


「忘れて行きやがったのかぁ。」


思わず、捨ててしまいたい衝動に駆られたスクアーロだったが、それを一旦宙に放り投げ、パシッとキャッチすると、そのまま手の中に握り込む。


忘れて行った…。


この言葉を心の中で復唱する。
なまえはこの指輪を片時も離さず身に付けている。
それと同じく、例の昔の彼とやらもなまえの中に存在しているのだろう。

だがしかし、今その指輪は俺の手の中だ。
外された指輪を思わず忘れ行ってしまう程、動揺していたのだろう。
だが、今だけは、あいつの頭の中には"彼"は存在せず、変わりに自分が存在しているのではないだろうか…。

スクアーロの口角がゆるりと上がる。


「はっ。まだまだ、これからだぁ。」


当初の計画とは予定が変わってしまったけれど、確実になまえの中に入り込めている事を実感し、スクアーロは不敵な笑みを浮かべた。

狙った獲物は逃がさない。
獰猛な鮫はゆっくりとその指輪を自分の懐ろの中に閉まった。








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