07
チュンチュンチュン…
さて、今日もまた爽やかな朝の訪れとともに、なまえがいつものように任務から戻る。
すると丁度、数日なまえとは別の任務に出ていたスクアーロと一緒になった。
『おはよう、スクアーロ。今戻ったの?』
「あ゙ぁ。お前も今戻りかぁ?」
『うん。』
そう答えたなまえの顔をスクアーロが見ると、目元が少し赤い。
あれから何回かスクアーロはなまえとの任務を遂行したが、任務後の行動は相変わらずだ。誰か居ようと、一人だろうと、彼女は決まって懺悔するかのように月を眺める。
「また、どっかで道草くってたんだろぉ。」
『さぁ〜。何の事やらサッパリ。』
そう、いつものようにはぐらかされる。
そんな様子を見てスクアーロが、盛大にため息をつき、このバカタレ。と言うように、なまえの頭に手を乗せた。
『何さ!ちょっと背が高いからって!自慢げに!』
「お前の考えることはよくワカラネェ…。」
『分からなくて結構!よし!では、ボスのところまで競争〜!!!』
なまえはまた、以前にも聞いたような、突拍子もないことを言い出した。
「競争好きだな、お前…。っても、まだ寝てんじゃねぇのかぁ?」
『じゃあ、スクが起こして、そして殴られて♪』
「ゔお゙ぉい…。」
その様子を頭で想像してしまったのか彼らしくなく小声でそう呟く。
なまえもまた、スクアーロがボスに殴られる場面を想像してか、面白そうに笑う。
そんな笑顔のなまえに、朝の太陽が降りそそぎ、スクアーロの目にはなんだかキラキラと輝いて見えた。
後にしておけと言う、スクアーロの意見は却下され、なまえとスクアーロはボスの部屋へと辿りついた。
『ボスおはよ〜〜〜♪』
なまえが勢いよく扉を開けば、予想は外れ、ザンザスは起きていた。
が、案の定、なまえの横をグラスが目にも止まらぬ速さで横切っていき、ガシャンッ!と鈍い音がした。
やっぱり、来るんじゃなかったぜぇ…とスクアーロがバラバラとガラスの欠片を払いながら思う。
ザンザスに文句を言ってやろうと、顔を上げた彼の目に映ったものは、その様子をケタケタ笑いながら見ているなまえ。
スクアーロは若干な苛立ちを覚えるも、ザンザスへの文句は喉元で止まってしまった。
まぁ、こいつが笑っているのなら今回は特別に許してやるかぁ…。
そう、目の端を赤くしつつも笑っているなまえの顔を見て思った。
「(なんだこの思考はぁ…ヤベェ…なぁ…)」
あの日初めて見たなまえの泣き顔。
それと共に芽生えてしまった自分ではありえないと思っていた、お節介な感情や妙な苛立ち。そして、なまえのこの笑顔を見た自分の反応…。
自分でも分からない感情の意味。
薄々勘付く事もあったが、あまり見ないようにしていた答えが、今、スクアーロの頭に正しく導きだされてしまった。
「(俺はこいつが…好き、なんだろうなぁ…認めたくはねぇが。)」
スクアーロがそう、思いを張り巡らせている横でなまえが声を上げた。
『ボス、今回も無事終わったよ!』
「さっさと報告書あげてこい、カス。」
『ウゲッ!報告書やっぱりいるんだ。いい加減、私から報告書を貰うの諦めてよ、ボス…。』
ザンザスの鋭い眼差しがなまえを射抜く。
その視線に、スクアーロの後ろにサッとなまえが隠れた。
「お前、報告書も無しでここに来たのかぁ?」
スクアーロがため息まじりに上半身だけ後ろに振り向けば、彼の背にコソコソ隠れているなまえが身長差から自然にそうなってしまう、上目使いで言った。
『スクを盾にすれば何とかなるかなぁ…と。』
「(クソッ!認めた途端に可愛く見えやがる!)」
そんな感情を微塵も表に出さないように、スクアーロは自分の報告書をザンザスの机の上に置いた。
『うわ!ちゃっかり書いてる!!』
「当たり前だぁ。」
用が済んだのなら、さっさと行け!と無言でザンザスが言っているので、スクアーロはなまえを連れ、速やかに部屋を出た。
「しょうがねぇ…手伝ってやるから、さっさとやるぞぉ。」
『え!?マジ!?何?今日槍でも降るの!?』
雲一つ無い空をなまえがずらりと並ぶ廊下の窓から見上げる。
「前言撤回すんぞぉ。」
『いや!待て待て!武士に二言はなしだよ!!』
「俺は武士じゃなく、剣士だぁ。」
『ひぃ!ご無体な!剣士様!スク様!手伝って!』
「ったく。俺は高ぇぞぉ?」
スクアーロがニヤリと笑うと、何とも力が抜ける返事が返ってきた。
『え?何が?背が?』
「お前なぁ゙…。」
天然なのか、分かっていて誤魔化しているのか、今一掴めない奴だが、もう今は何でもいい。
なまえと一緒に居たいからという、スクアーロのシンプルな理由はまだ彼だけの内に秘め、長い廊下を二人で歩いた。
「(自分の気持ちに気付いちまえば、後は行動あるのみだからなぁ。)」
なんて、ニヤリと再び口角を上げたスクアーロだったが、デカデカと、任務完了(ハート)と書いてある、一枚の紙で出来た報告書をなまえの満面の笑みと一緒に見せられ、
「お前ふざけてんのかぁぁああ゛!」
と、彼の叫びが屋敷にこだまするのは、もう少し後の事。
「今までよくボスにかっ消されなかったなぁ…。」
心労に耐えつつ、気付いてしまった恋心なんて何処へやら、本気でなまえに報告書の、イロハを教える羽目になったスクアーロであった。
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