傍若無人な紅い瞳



『ザンザス様の手前、失礼かと存じますが…あの、それは“左遷”と捕えてよろしいのでしょうか…。』


涙目になりそうなのを必死に堪える。
上司の命令に涙する等、もういい年齢の私がしても、それは可愛くもなんともなく最早、気持ちが悪いだけである。
ヴァリアー…ボンゴレ特別暗殺部隊。
そんな物騒な場所へ、戦闘要員に等、微塵にもなれない私に訪れた突然の異動命令。
新手の虐めだろうか。その優しい笑顔の裏側を探るのが怖すぎる。


「ハッ。本当に失礼な女だな。」


『…申し訳ありません。』


ザンザス様の御言葉に、本当に申し訳ないと返事をすると、綱吉様が慌てたように私の方へと身を乗り出された。


「“左遷”だなんてとんでもないよ!こちらとしてはなまえさんを手放すだなんて考えただけで頭が痛い。」


そう言って、綱吉様は頭を抱える。

余裕が出来てきたここ最近で、私は後釜を育てるべく痴がましくも若い人達への教育等も行っている。ここへ来た頃は何故か意固地になって、何が何でも一人でやってやる!と、膨大な仕事を抱えていた。補佐を付ける訳でもなく、部下を携える訳でもなく。
一人で我武者羅に仕事をこなし、その達成感に優越感を覚えていたのかもしれない。
だが、9代目が引退すると決められて、力になって欲しいとの御言葉を頂いた時、ふとボンゴレの将来を垣間見て、これではいけないと思い直した。
私が何時どうなろうとも事がスムーズに回るようにと新しい人材を育てなければならないと悟った。
思えば、目の前に居る綱吉様くらいの頃の私は、9代目より授かった大切な自分の居場所を他の人に盗られてしまうのが怖かったのかもしれない。
私一人しか出来るものが居なければ、そこは永遠に私の居場所になるからだ。
だが、そうは言っては居られない。私が此処で働くのには限りがあるのだから。
その自己保身的な考えに良い未来は与えられない。
そう悟れるくらいには歳を重ねて成長したのだと思う。
だが、教育はまだ中途半端だ。それを考えても今私が此処を離れるのはまだ時期ではない。
もし、今の綱吉様の御言葉が本心から来るものであれば、私はまだ此処に、ボンゴレ本部でやるべき事が残っているのだから、ここに居させて欲しい。
その考えを綱吉様にお伝えしようと口を開くと、また私にしゃべらせないかのようにザンザス様の言葉が響く。


「女、お前には此処でしてきた事をヴァリアーでやって貰う。」


その言葉に、綱吉様が盛大なため息を零すと、私にその透き通った琥珀色の視線を向ける。
綱吉様が私に何か伝えようとされた時、ザンザス様が立ち上がった。
先程から人の言葉を止めるのが上手いお方だ。そもそも人の話等聞く気が無いからかもしれないが。
大股であの長い廊下へと続く扉の方へ歩き出されたので綱吉様が私への言葉を一旦止め、慌ててザンザス様に声を掛ける。


「ちょっ、ザンザス!?」


「話は済んだ。もうここに用はねぇ。明日にでもその女を寄こせ。」


そう一方的に話を付けると、ザンザス様は扉の外へとその御姿を消した。
それと同時に、綱吉様がまた、盛大なため息を吐き出された。
……まだお若いのに、御苦労なさっておられるようですね。と、心の中で彼を労わる。


『綱吉様…、』


「はぁ。ごめんね。ちょっとお茶でも淹れるから話はそれから…」


『私がお淹れ致します。』


そう私が立ち上がると、いつもは僕がやりますからとドン・ボンゴレらしからぬ事を口にするのに、よろしくと綱吉様はソファーに身を沈める。
大変お疲れのご様子だ。私は数種類取り揃えてある茶葉の中から、甘い香りのするローズピンクを手に取った。







「ありがとう。いい香りだね。」


そう言って綱吉様が、甘く上品な香りが立ち込めるティーカップを机にコトリと置く。
彼が口を付けられたのを確認して、私もティーカップを手に取る。
口当たりはサッパリとしていて癖が無いが、口の中にはふんわりとローズの香りが広がっていく。
ローズには疲れを癒す他に、落ち込んだ時や不安になった時、それを和らげて前向きな気分にしてくれる効果がある。お疲れの御様子の綱吉様にお出ししたが、実は私自身の為に無意識にこれをチョイスしてしまったのかもしれない。


「異動の話なんだけれど…。」


ローズの香りに身を解されたのかどうかは定かではないが、綱吉様が漸く事の経緯の説明をし始めて下さった。
私は彼の話を遮る事もなく、淡々と時折相槌を打ちながら只、黙って耳を傾けた。



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