お久し振りです



スクアーロはあっけない程に、直ぐ見つかった。あの馬鹿デカイ声のお陰で。
口を開けていれば直ぐに見つかるスクアーロ。そんなので本当に暗殺者なんてやっていけているのだろうか?なんて生意気な事を思ってみたりするも、いらぬ心配余計な御世話だ。
彼はと言うと、丁度、任務から帰って来たのか、もしくはこれから何処かへ出掛けて行くのかは分からないけれど、エントランスホールに居た。
独特の声色で隊員達に何か指示を出しているようだ。

ゆっくりと幹部フロアがある上階から、エントランスの方へと階段を下りる。
成るべく自然に、声を掛けよう。そう自然に…。そう思えば思う程に、自然と言うものが分からなくなっていく。自分がいつも、どうスクアーロに声を掛けていたのかも分からない。気まずさが払拭しきれず、思考回路がドンドン迷路へと彷徨って行く。
さて、これは困った。どうやって声掛ければいいかしら。
頭で必死になってそうこう考えている内に、気が付けば、最後の段差を静かに下りていた。


「なまえさん、お疲れ様です。」


私に声を掛けてくれたのは、スクアーロ。と、言いたい所だけれど、私に気付いた隊員の一人。私自身、久しぶりに幹部フロアから出て来たものだから、積もる話しもそれなりにある。鍛練場の使い心地はどうかだとか、なにか問題はないか等、まあ色々と。
一人と話していると、また一人、二人と、周りに隊員達が増えていって、会話が弾んで行く。弾んで行くのは結構な事だが、少々相手が違う。
今、私が話をしなくてはいけないのはスクアーロなのだ。その為に仕事を中断してやってきたと言うのに。それなのに、スクアーロに声を掛ける勇気が今一つ出て来ない。

隊員達と話をしながら、本来の目的の人物が気になって、チラリとそちらを伺うと、丁度スクアーロもこちらを気にしていたのか目が合った。
互いに声を出さずに、視線を合わせていた私達に気が付いたのか、隊員達が一歩下がる。


「……よぉ゙。ちゃんと生きてたかぁ?」


『この通り、ピンピンしてますよ。』


「そりゃよかったなぁ゙。全く、姿見せねぇから遂にくたばったのかと思ったぜぇ。」


『そうね、死なないように気を使ってくれる誰かさんがいる限り、そう簡単にはくたばりそうもないわ。』


そう言ってニッコリ笑えば、スクアーロも小さく笑った。
小さく笑うその前に、少しホッとした表情をしたように見えたのが私の勘違いで無ければ、私の幼稚な行いを少しは気にしていたのかもしれないと、少し胸が痛んだ。
やっぱり、きちんと謝らなければ。それでも、周りに人が沢山居るこの状況は少し話を切り出しにくい。


『スクアーロ、任務帰り?それとも今から任務?』


「任務と言えば任務だなぁ。まぁ、ボスさんの雑用だぁ。」


スクアーロはそう言って、書類でも入っているのだろうか、手に持っていた茶封筒を少し上に掲げてヒラヒラと動かした。


『それを何処かに持って行く任務?』


「まぁな。重要書類だとかで、沢田の所までな。」


『綱吉様?本部まで?』


「……暇なら、一緒に行くかぁ゙?」


『え?う、うん!』


なら、とっとと行くぞ。と、スクアーロが歩き出す。
別に暇な訳でもないけれど、答えはイエスに決まってる。
思えばヴァリアーへ異動になって以来、本部へは顔を出していない。久しぶりの本部に胸が躍る。しかし、当初の目的も忘れない。車中なら、此処より人も居ないし、話も切り出し易いだろうと、スクアーロの後ろ姿を慌てて追いかけた。


「おら、さっさと乗れぇ゙。」


そう言ったスクアーロが開けてくれた扉は、助手席の扉だった。


『…もしかして、スクアーロが運転するの?』


「そうだ。なんか、問題あるかぁ?」


『いや、意外だっただけ。』


大体いつもは、隊員の誰かに運転させて、後部座席でゆったりと寛いでいるのに、今日はどういった風の吹きまわしか、スクアーロが運転するらしい。
あまり、そういうイメージが無かったので、少し驚いた。と言うか、運転大丈夫なの?と少し不安になる。
しかし、その不安を余所に、運転席に乗り込んだスクアーロは慣れた手つきでエンジンをかけ、実に静かにゆっくりと車を発進させた。


『……意外と安全運転。』


「凡人が乗ってるからなぁ゙。気絶覚悟なら、いつでも俺のテクニックを見せてやるぜぇ?」


『いや、このまま安全運転でお願いします。』


是非に。と、強く言えば、クックッと笑いながら、滑らかにハンドルを滑らすスクアーロ。
この調子なら大丈夫そうだと、ホッとして、流れる景色に目を向けた。


『ドライブなんて久し振り。』


「なまえは外に出無さ過ぎだぁ。」


『いっつも仕事してるからね。休みは寝てるし。』


「ゔお゙ぉい。不健康だなぁ。」


『まあね!』


「そこを誇るんじゃねぇ゙。休みが合えばいつでも付き合ってやるから、ちぃたぁ、出掛けろ。」


『……気が向いたらね。ねぇ、スクアーロ。』


「ん゙?」


『この間はごめんね。私、酷い態度で…。』


恐る恐るそう言って、スクアーロの様子を伺う。
真っ直ぐに前を見つめたままの彼の横顔は、ニタリと、意地の悪い笑みを浮かべていた。


「ハッ。ある意味、面白かったぜぇ。あんな感情を表に出してんの初めて見たしなぁ゙。」


『うぐっ。恥ずかしいから、ぶり返させないで。』


「まあ別に、気にしちゃいねぇ゙よ。」


『ん、そっか。』


「おぉ゙。」


本当は気にしてたでしょ?嘘付き。とは言わない。
さっき、普通に会話をしてホッとしたような顔をしてたじゃない。とも言わない。
こういう所がスクアーロのいい所なのだ。うっかりしていると見逃してしまいそうな彼のその優しさを有難く頂戴して、ソッと胸の中にしまっておくのもまた礼儀だ。

その後も、私がお願いした通り、スクアーロは安全運転で軽快に車を走らせて行く。
心地の良い振動に、眠気が襲ってくるくらいに彼の運転は安心できた。
寝てもいいぞと言う彼に、大丈夫と言いながらもコクリ、コクリと船を漕いでいると、いつの間にやら本部の入口へと到着していた。


『ごめん、結局寝てた……。』


出発の時同様、当たり前のようにスムーズに助手席の扉を開けてくれたスクアーロが、「始めから素直に寝てりゃよかったんだ。」と、私の手を取った。
涎なんてまさか垂れてはいないだろうなと、口元を気にしていると、車外に出た私を意外な人物が出迎えてくれた。


「やあ、誰かと思ったら随分久し振りな顔だね。」


『雲雀様。御無沙汰しております。』


「うん、今はヴァリアーだっけ?」


『はい、御挨拶にも伺えないまま、申し訳ありません。』


「ワォ。本当にあんな所にいるんだ。どうせならウチの財団へ来ればよかったのに。」


「ゔお゙ぉい、聞き捨てならねぇなぁ゙。」


「これでも君の事は一目置いていたんだよ。群れるのは嫌いだけど、優秀な人材は好きだからね。」


『え?あ、その、ありがとうございます。』


「無視してんじゃねぇ゙ぞぉ!」


「そういう訳だから気が向いたらいつでも来なよ。それじゃ。」


一方的にそれだけ言って、雲雀様は颯爽と車へ乗り込んで行った。
私達が乗って来た車の前に止めてあった黒塗りのセダンには草壁くんの姿もあって、ペコリと一礼すれば、彼もまた会釈した。


「チッ!相変わらずいけすかない野郎だぜ。」


雲雀様にことごとく無視されたスクアーロが舌打ちを打つ。
すっかりヘソを曲げてしまったのか、さっさと行くぞと屋敷の中へと続く扉を乱暴に開け放った。
私はと言うと、雲雀様にそんな風に思われていた事が信じられなくて、彼を乗せて走りだした車を暫く見つめていた。本部で仕事をしていた時も、他の守護者の方に比べればあまり接点は無い御方だった。草壁くんとのやり取りの方が多くて、雲雀様は私にとってレアな人物だったのだけれど、まさかそんな風に思ってくれていたとは。


「ゔお゙ぉい、なまえ、早くしろぉ゙!」


『うん、今行く。』


しっかりと雲雀様と草壁君を見送って、慌ててスクアーロの元へと駆け寄る。彼の表情は相変わらず不機嫌そうだった。


『スクアーロ、綱吉様に八つ当たりしちゃ駄目だよ?』


「お゙ー。その手があったなぁ。」


『あ、ちょっと、駄目だってば!』


物騒な事を言うスクアーロの背中を追って、私は久しぶりに本部へと足を踏み入れた。





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