一瞬のち一生





『結局、ザンザス様もスクアーロもフランも、今回の事はぜーんぶ計画の内で、何も知らされて無かったのは私だけだったのよ!酷いと思わない?』


そう言って、あんぐり開けた口の中にポイッとマカロンを放り込む。
むぐむぐと咀嚼を繰り返し、ゴクリとそれを飲み込めば、再び口から溢れ落ちる愚痴。


『そもそも、そういう事なら、私が行く必要は全く無かったのよね…。あんな騒動の中じゃ、私なんて居ても邪魔なだけだしさ…。はぁ、本当に、何しに行ったんだか…。』


どうやって事を進めようかと悩みに悩んだ挙句、お気に入りの靴を一つ駄目にしてしまっただけじゃないか。と、心の中で付け足して、溜息を零しつつ、もう一つマカロンを口に放り込んだ。この一口サイズのマカロンは、ついつい手が伸びてしまう。
でも、さっきからずっと、愚痴を零してはマカロンを放り込むという単調作業を繰り返しているので、いい加減口の中が甘ったるくなってきた。


「うふふ、大変だったわねぇ。」


そんな私の、お口加減を見越したかのように、ルッスーリアが淹れたてのお茶を私に差し出してくれた。ありがとう。と、それを受け取り口へ含むと、スーッとした清涼感が広がって、何とも気分が落ち着くようだった。イライラしている私にミントティーをチョイスしてくれたようで、その気回しに、ツンツンしていた気分が丸くなるようだ。
今日は、ルッスーリアと二人きりの談話室。彼女曰く、“女子会”と言うものらしい。


「なまえが言い出した事なんだから、貴女が行く意味はあったのよ。それに、よかったじゃない。結局上手くいったのだから。」


流石はボスよねぇ〜。なんて言いながら嬉しそうなルッスーリアをジト目で睨みながらも、再びハーブティを口に含んだ。
始まってしまった、ルッスーリアの“ザンザス様は素敵なのよ”談議にうんうんと、抜群のタイミングで相槌を打って行く。これでいて、中々聞き上手なのだ、私は。


「ちょっと、聞いてるの!?うんうん言ってばかりじゃない。」


『き、聞いてるってば。』


そう、聞いている。もう、耳にタコが出来るくらいに聞いている。聞き上手なばっかりに、聞きまくっている…。かなりの頻度で繰り返されるルッスーリアの談議の内容は、もう脳内にインプットされてしまっている程だ。
例えば、そろそろ「んもう、ボスのあの!ひきしまったカ・ラ・ダ!いや〜ん!素敵ッ!!」とか言い出して、クネクネと動き始める。なーんて予想が出来てしまうくらいに。


「んもう、ボスのあの!ひきしまったカ・ラ・ダ!いや〜ん!素敵ッ!!」


………ほらね。
予想しては、答え合わせ。これを繰り返しながら、ルッスの話を聞きつつ、ヒョイヒョイとマカロンを拾い上げていると、いつの間にか器の中は空っぽになってしまった。
結構、山積みに置いてあったはずなのに…。一口サイズとはいえかなりの量のマカロンを食べてしまったと話そっちのけに青くなっていると、ルッスーリがそれに気付いたのか、「あらやだ!食べ過ぎよ!」と驚いて見せた。
確かに食べ過ぎてしまった。ストレスから食に逃げてしまったのか、最近少し、お腹周りが危険な気がする…。


『最近食べ過ぎちゃうんだよね…。そろそろ自制しなきゃヤバイかも…。』


「気を付けないと駄目よ。女はいつでも臨戦態勢でいなくっちゃ!」


『いや、別に私は戦わないし…。』


「いやぁね。戦は戦でも、恋の戦よ!!」


この、ルッスーリアの愛に熱い所は嫌いでは無い。寧ろ好きなくらいだ。
同い年とは思えない程に、恋愛に対していつでも積極的で行動的な所には、まるで正反対な私は感心するばかりなのだ。
まあ、愛の形は人それぞれでその愛し方に関しては触れないけれど…。
ルッスーリアの愛の形を知った時は、卒倒してしまいそうな勢いだった事は最近の話だ。


『恋の戦ねぇ…私には縁の無い話だわ。』


「何言ってるのよ、縁は自分で作るものよん!」


『そうだけれど、その縁を作るのも真っ平御免なのよ。』


そこまで言うと、ルッスーリアは頭の上にハテナを浮かべたような顔をして、私を見つめる。その視線に気が付いて、余計な事を言ってしまったかな?と、思ったが、言ってしまった言葉は取り消せないので、食べ過ぎたマカロンのせいで胸焼けにならないだろうかと心配しつつ、カップに残っていたハーブティーを飲み干した。
そのまま、そろそろこの場から退席して、仕事部屋に戻ろうかとも思ったが、ルッスーリアの無言の問い掛けに、中々腰を上げる事が出来なかった。
私は、一つ大きく呼吸をして、諦めたように言葉を零す。


『……恋の喜びは一瞬だけど、恋の悲しみは一生じゃない。一瞬の為に一生を使うのは嫌なの。どちらも放棄する確実な方法は、恋をしない事よ。』


そう言って、恐る恐る席を立った。ルッスーリアの方を見ると、何だか悲しそうな表情をしていて、別に自分では悪い事を言ったつもりはないのだけれど、罪悪感が込み上げて来るようだった。
いつでも、恋愛に真っ直ぐなルッスーリアからしてみれば、私のこの考えは理解し難い事だろう。だから、何も言わず誤魔化してしまいたかったのだが、黙ってこの場を後にする事は出来そうになかったのだから、仕方が無い。


「喜びが一瞬とは限らないじゃない。」


眉を寄せてそう言うルッスーリアに、私は少しぎこちなくなっているだろう微笑みしか返せなかった。恋の捉え方も愛の形も人それぞれだ。ルッスーリアはそうでも、私が今持つ結論は“恋をしない”なのだから、意見が交わる事は無い。
返す言葉に困っていると、丁度、ポケットの携帯が震えだす。


『ごめん、ルッス。仕事だ。』


ジェスチャーでも謝りながら、かかってきた電話を口実にして、私は、そそくさと談話室を後にした。


「なまえッ!……んもう、今度問い詰めてやるんだから!……ぐずぐずしていると、自分が望んだって、恋の悲しみも味わえなくなるわよ!」


そんなルッスーリアの言葉が、なまえが出て行った後の談話室に響く。
この言葉をなまえがもし聞いていたならば、彼女はまた少し、ぎこちなく笑い、勘弁してよ。っと、困ったように言うのだろう。
そんな事を考えながら、ルッスーリアも、カップに残っていたハーブティーを一気に飲み干して、ハァッと大きな溜息を吐き、なまえが出て行った扉を暫く見つめていた。




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