お茶会





さて、ここはまたいつもの如く仕事部屋……では無くて、無事修繕が済んだ談話室。
談話室が直ったお祝いに、お茶会でもしましょうと、ルッスーリアの提案だ。
キリのいい所まで仕事を進めたら行くからと言う私の言葉はサクッと無視をされて、ずるずると仕事部屋から引き摺り出された結果だ。
とは言っても、中途半端な仕事の続きをそのままにしておく事も出来ず、ティーカップを片手に持って来た資料を捲る。お茶会なんて優雅な時間に何とも不釣り合いな光景だが、これも私の性格上仕方が無い。一度手を付け始めると、自分が満足するまで止められないのだ。


「なまえさーん。」


『はいはい、何ですか?カエル君。』


「…ミーはカエルじゃありませーん。なまえさんって、もしかして老眼ですかー?」


『はぁ!?』


何と!いきなり何を言い出すのかこのカエル君、もといフランは。
心外にも程があると、思わず書類に釘づけになっていた目を離し、真正面に座っていた彼を睨みつける。


「だってー眼鏡を頭にあげて、資料を見る様はもうおばあちゃんですよー。」


『断じて違う!更にコレ、老眼鏡でも何でも無く、ただの伊達眼鏡!』


「伊達?なんでそんなもんしてんですかー?」


『まあ、伊達と言うより、保護眼鏡かな?モニター作業が多いから。』


そう言いつつも、おばあちゃんの様だと言われてしまうとは…と思いながらも、頭に上げっぱなしだった眼鏡を本来の位置に戻す。仕事中はソレに夢中で、眼鏡の上げ下げ等、無意識の内の事なのだが、これからは気を付けようと心に止め置いた。
実を言うと、無意識過ぎて、頭に掛けている事すらも指摘されるまで気が付いて居なかったのだが…。駄目だ、これじゃあ、老眼鏡を頭につけて、眼鏡を探しているまさにおばあちゃん状態だ。本当に気を付けよう。


「てかさ、それならモニターに保護フィルムかなんか貼ればよくね?」


そう横から声が聞こえたかと思うと、元に戻した眼鏡が私の意思とは関係なく取り外される。


『あ!ちょっと、返してよ。』


「しししっ。眼鏡してない顔初めて見たかも。」


私の眼鏡を奪い取ったのは、ベル。いつものように悪戯っ子のように笑う彼を見て、今すぐ取り返すと言う選択は削除された。返せ返せともみ合いになった所で勝ち目は無いし、余計に面白がらせるだけなので、半ば諦め状態で手に持って居た資料をまた一枚パラリと捲る。さて、続きに目を通そうとした時に、それはバサリとこれまた私の意思とは反して誰かに奪われた。


「んもう!今はお茶と会話を楽しむ時間。仕事はまた後でも出来るでしょう。」


プリプリとした口調でルッスーリアから窘められる。まるで、食事中に新聞を広げているお父さんを怒るお母さんの如く。だからキリがいい所まで済んだら参加すると言ったのに。もうこれは、お茶会とやらが終わるまで資料を返して貰えそうにない。
仕方なく、私は宙に浮いたままの手を力無く下へと落とした。


「ここに来てから、仕事ばっかしてんだ、たまにはいいじゃねぇか。」


そんな私の様子を見て、スクアーロが一言。
成程、確かにヴァリアーに来てから、毎日、仕事部屋と私室の往復であった。
段々と此処にも慣れて来たとは言っても、こうやって皆さんと一緒にゆっくりとお茶をするなんて初めての事だ。
別に私一人でヴァリアーを動かしている訳では無い。それこそ、幹部の面々、ザンザス様もしかり。色々な人が集まって、その集合体がヴァリアーだ。こんなコミュニケーションの場もたまには必要だ。


「そうよ、歓迎会も出来なかったんだから、いいじゃないの。」


そう言いながらルッスーリアが私の目の前に一枚のプレートを静かに置いた。


『うわ…美味しそう。』


プレートの上には、私の大好物の苺のショートケーキから始まって、いくつかのドルチェ。
一つは一つは小ぶりだが、その分何種類もの味が楽しめるようになっている。
食べても美味しい、見ても美味しいそれは、可愛らしく盛り付けられていた。


「そういうので喜ぶ所はやっぱり女の子なんですねー。」


『今更女の子とか言われても、嫌味っぽいわよ。』


フランの言葉を軽く流して、ドルチェプレートにフォークを進める。
酷使されっぱなしの脳内にあま〜い栄養が沁みわたるようだ。


「そういえばー、何でなまえさんはボンゴレに居たんですかー?」


『え?何でって…なにが?』


「だって、何処からどう見ても一般人ですしー。」


「確かに、沢田なんかとも関わりなかったんだろぉ゙?」


フランの質問にスクアーロも乗っかって、質問の嵐。
言われてみて気付く。確かに、何故私みたいな一般人が、よりにもよってボンゴレだなんてマフィアの頂点に君臨するような所で、働いているのか。普通に考えれば不思議だよなと自分でも思う。自分でも思う事なのだから、彼等からしてみれば本当に理解不能な事であろう。


『……何でかなぁ?』


「質問の答えになってませんよー。」


『んー?ボス…9代目にスカウトされたから?』


「そこがまず、分からねぇがなぁ。あの爺がわざわざ一般人を巻き込むわきゃねぇ゙。」


んむむ。中々鋭いな、スクアーロ。
確かに、9代目がわざわざ一般人を危険なマフィアの世界に巻き込むなんて事は想像付かない。それでも、私は確かに9代目に拾われて此処に居るのだが。
何処となく腑に落ちていないような表情が私の目の前に並ぶ。
さて、どうしようかと思った時、私の視界の端に赤い色の何かがスーッと通り過ぎて行った。


『あ゙っ!!』


「ゔお゙っ!?」


「いきなりなんですかー?」


『私のイチゴっ!』


慌てて隣に振り返るも、時すでに遅し。私のドルチェプレートに乗っていたショートケーキの苺は、隣に居たベルの口にポンッ!と放り込まれた所だった。


「ん?しししっ、早い物勝ち♪」


『最後に取ってたのに…。』


いちご…私の苺。何もそこまで項垂れる事は無いのだが、最後に食べようと思っていた物が無くなってしまった時の喪失感は中々半端では無い。この堕王子め。人の苺を…。


「あら?なまえは好きな物を後に取っておくタイプなのね。」


『それがどうかしたのルッス…。』


「うふふ、なまえは小さな事にうじうじ悩む、恋愛に臆病なタイプね。」


「しししっ、当ってんじゃん。まあ、そんなうじうじすんなって。」


うじうじすんなって…人の苺を掻っ攫っておきながら…。
恨めしい顔でベルを睨みつけていると、そんな私の様子を愉快そうにベルが笑う。


「ゔお゙ぉい、なまえ。」


スクアーロに名前を呼ばれるも、しつこくベルを睨みつけていると、再度名を呼ばれ、溜息を付きながら振り返る。何ですか?と返事をしようとした瞬間に、私の口に何かが押しつけられて、言葉を吐き出せない変わりに口に広がったのは、苺の香りと甘い風味。
欲していたその味に、自然と頬が弛みながらも、目の前のスクアーロに視線を移すと、


「んな小せぇ事で愚痴愚痴言ってんじゃねぇ゙。」


と、一言。どうやら、スクアーロの苺を私にくれたようだ。
そんな彼に、別に愚痴愚痴言ってないと反論したかったけれど、口に広がる甘い風味を必死に咀嚼する。なんだ、まるで私が子供みたいに拗ねてるみたいじゃないか。
でも、苺は美味しいので、取り敢えずよしとしよう。


「なまえさんって、案外子供ですねー。おばさんのくせに。


それでも、ボソッと聞こえたフランの声は聞き逃す事は無く。
その後、ギャアギャアと言い合いをしながらも、久しぶりに仕事を忘れて、賑やかで楽しい時を過ごしたのだった。







「あれ?結局なまえさんってーなんでボンゴレに居るんでしたっけー?」

『お黙りなさい!フラン!そんな事よりさっきの発言は聞き捨てならないわ!』

「えー、ミーは真実を言ったまでですよー。」

『まだ言うかぁー!』

「ゔお゙ぉい、落ち着けぇ゙。」




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