文明の機器




ウィーンウィーン……


機械音が響くこの部屋で格闘を続けて数週間。
優雅にティーカップなんか手に持って、午後のお茶を嗜んでいたりする私。
9代目が送ってくれた茶葉はやっぱり最高だ。そして、もう一つ。


『んー!やっぱり、文明の機器は素晴らしいっ!』


優雅な私とは正反対に、動きを止めない小さなセラミックの塊。
その動きには全く無駄が無い。着々と日夜休みなく働き続け、紙という紙は次々にスキャニングされ、デジタル化されていく。しかも、その膨大な量の資料は自動でその種類によってフォルダ分けされていき、いざ必要となった時の検索システムも完璧だ。
もちろん、ボンゴレの誇る優秀なメカニック達の力があっての事。
最初は、スキャナーとドキュメント管理システムなるものをジャンニーニに頼み込んだのだけれど、例の如く、そこにスパナ君や正一君も加わって、またとんでも無くいい物を作って貰えた。先程から紙をせっせと運んでいるのは、スパナ君のおまけのミニモスカ。
お陰で私はこうして優雅にお茶なんて出来る時間を得たと言う訳だ。ありがたや、ありがたや。





『あれ?』


機械音が止まり、ふと静かになった部屋に気が付く。
ティーカップをソーサーに置いて、振り返ると、あれだけ優秀に動いてくれていたミニモスカが止まっている。………もしかして、故障!?
“おまけ”扱いのミニモスカだけれど、今はなくてはならない存在だ。
一気に血の気が引いていき、慌てて携帯を取り出した。
こ、酷使し過ぎたのかな…。
私の耳にコール音だけがむなしく響く。電話の相手はミニモスカを作ってくれたスパナ君。
中々電話に出てくれない。彼の事だ、携帯なんてそっちのけで何かの作業に没頭しているのかもしれない。

小さく溜息をついて、途切れる事の無い呼出音を止める。電話帳をまた新たに引っ張りだして、次の相手へと助けを求めた。


『もしもし?正一君?』


「やあ、なまえさん。調子はどうですか?」


『うん、ちょっと問題が…』


電話に出てくれた正一君に事情を説明して、スパナ君に連絡を付けて欲しいとお願いしたが、どうやら原因は明白らしく、正一君がくれた返答はこうだった。


「モスカの動力源は死ぬ気の炎です。そのミニモスカはいわゆる充電式で、誰かに死ぬ気の炎を注入して貰えばまた動きますよ。」


説明を受けて、動かなくなったモスカを弄ると、丁度リングが嵌るような窪みがあった。
成程、ここへリングを嵌めて貰い、死ぬ気の炎を充電するようだ。


「それでも、そのモスカはかなりの炎を備蓄出来る構造なんだけど…かなり酷使しましたね?」


『え?あ…えっと、アハハ………夜通しで働いて貰ってました。』


「たまには休ませてあげないと、モスカも悲鳴を上げますよ?」


『うん、ごめんね。』


そこで会話を終わらせたかったのだが、正一君の機械工学話しが止まらない。
どこそこのモーターがどういう仕組みで、だからたまには休ませないとから始まって、私にはまるで分からない専門用語も飛び出して……こうなると長いんだよなぁ…。



『よ、よ〜く分かったから!その続きはまた今度!』


逃げるように耳から携帯を離す。私を呼ぶ声が聞こえたけれど、躊躇い無く通話終了のボタンを押した。


『さてと。炎っと。』


ミニモスカを抱き上げて、私は談話室へと急いだ。
ルッスかレヴィか、スクアーロあたりが居てくれるといいのだけれど。

駆け足で談話室へやってきて、ソーッと中の様子を伺う。
するとそこにはルッスーリア一人。良かったと胸を撫でおろし、中に入ろうとすると突然背後から聞こえた笑い声。


「しししっ。こそこそ何やってんの?」


『ぅっわあ!』


気配もなにも感じなかったものだから(暗殺集団のアジトなので当然だが)、物凄く驚いて肩が跳ねると共に、情けない声が口から飛び出した。


「ん?なにこれ?」


『あ!駄目ッ!』


そんな制止もむなしく、私の手からミニモスカが奪い取られる。


「ししっ、モスカじゃん。」


あぁ。もう駄目だ。モスカを手に嬉しそうに談話室へ入って行くベルの顔は、おもちゃを見つけた子供のような顔をしている。


「それなんですかー?」


ベルが喜々としてソファーへと行くと、フランがミニモスカに反応する。
最悪だ。ベルとフランが組み合わさるとろくな事にはならない。最悪ミニモスカを壊される事もあるかもしれないので、警戒していたのに…。


『……って、フラン!?ルッスは!?』


「あぁー、なまえさんがコソコソとこちらの様子を伺っていたのでー、気を効かせてオカマに化けてましたー。」


『……………。』


最初に見たルッスの姿は、フランの幻術だったようで。
それを見破るだなんて私には出来るはずも無く。結局はこの二人にミニモスカを見つけられてしまう結果になっていたのだ。
肩を落として、大きく溜息を付く。二人の様子を伺えば、ミニモスカに興味津津のご様子だ。さて、どうやってあの二人から無事に私の大切なパートナーを取り戻そうかと頭を悩ませながら、談話室の扉をパタンと閉めた。



「なあ、なんでコレ動かないわけ?」


「あっ、せんぱーい、ここに変な窪みがありますよー。」


「ふうん…確かモスカの動力源は死ぬ気の炎だよな♪」


ニッと白い歯を見せたベルの指輪に赤い炎が灯る。
まるで最初から分かっていたかのように、何のためらいも無く、ミニモスカの窪みにベルがリングを嵌めると、ミニモスカの目が炎と同じ、赤色に光った。


「へぇ。結構、炎使うんだな。」


「おぉー、動き始めましたねー。」


大量に赤い炎を吸収して、元気になったミニモスカが動き始める。
動き始めたおもちゃに、二人は益々止められない。


「ん゙?何やってんだぁ?」


いつ壊されるかと冷や冷やと様子を見守っていた私の背後から、またもや声を掛けられた。
でも、今回は驚きはしない、反対によくぞ来てくれましたと、心が跳ねる。


『スク!お願い、壊れちゃう前にミニモスカ取り返して!』


「ゔおっ!?」


振り返った私が縋り着くように懇願する物だから、スクアーロは一瞬あっけに取られた顔をして、それでも直ぐに状況を理解したのか、ミニモスカに夢中な二人に視線を向けた。
私もそれにつられて視線を元に戻すと、ベルがガンガンッとナイフでミニモスカの頭を叩いている所だった。


『そんな手荒にして、壊れたらどうするのよ!』


「ゔお゙ぉい!何か知らねぇが、返してやれぇ゙。」


「ししっ、邪魔すんなよ。」


その瞬間、私の右側に僅かに風が走った。その少し後に、トンッ!とここへ来て何度も聞いたどこかにナイフの刺さる音。丁度、私とスクアーロの間をお決まりのようにナイフが通り過ぎて行ったのだ。
私は見る見る青ざめて行き、隣のスクアーロは見る見る機嫌が悪くなって行く。


「ゔお゙ぉい!何しやがるクソガキがぁ!」


この場はスクアーロに任せて、少し離れた所にいようと固まりつつある脚に力を入れようとした時、ミニモスカがウィィインッ!と大きな音を立て始めた。


『…え?もしかして壊れちゃったの!?』


慌てて、ミニモスカの側へと近寄る。私の言葉にその場に居た全員の視線がミニモスカに集まった。すると、突然、



ガゴンッ!



と、ミニモスカの手首の部分が外れ、手が下へと下がる。
外れた手首の所では、赤い光がこれでもかと光を放って居た。


「ししっ、やっべぇ。」


「しかもあれ、ベル先輩の嵐の炎じゃないですかー?」


『え?何?なんなの?』


「ゔお゙ぉいっ!なまえ離れろぉ゙!」


【ピーーーーーーーーッ!ターゲットロックオン】



『え?えぇぇぇええええっ!?』






















「ゔおぃ…大丈夫かぁ?」


いつの間にか瞑っていた目をその声で薄らと開けると、私は何かに包まれていた。
それが、私を守るように抱きしめているスクアーロだと気が付くのに数十秒。
理解した途端、心臓が五月蝿く高鳴ったが、それは直ぐに別の物へと変化する。


『………何これ。何?どうしてこんな……』


私の目に映ったのは半壊した談話室。部屋の真ん中では私が思っていたよりも随分と丈夫な作りになっているのだろう最後に見た形のまま動きを止めたミニモスカ。
何処からともなく、避難していたのであろう、ベルやフランも姿を見せ、おっかねえ〜なんて言いながら笑っている。
放心状態の私は震える右手で携帯電話を取り出した。



『……もしもし?正一君?これは一体…。』


「え?どうしたんですか?なまえさん。」


『どうしたもこうしたも……モスカがドォォオオン!って……』


頭が真っ白で、上手く言葉が出て来ない。
それでも、この擬音だらけの言葉でも正一君は理解してくれたのか、明るい元気な声で私に答えをくれた。


「ああ!それは、なまえさんを守る機能ですよ!ヴァリアーだなんて危険な場所だから、どうせならそういう機能も付けてあげてと綱吉君の提案なんです!その様子だと、ちゃんと機能したようですね!」


『………ちゃんと…機能?』


さて、落ち着こう。私のいい所は冷静に物事を捕える所だ。どんな時でも慌ててしまっては駄目だ。まず、このミニモスカの機能。私の身を案じ、綱吉様がつけてくれた物だと言う。ミニモスカがこんな暴動を起こしてしまう前、……確か、ベルのナイフが私に向かって投げられた。きっと、これをミニモスカが私への攻撃行為と認識し、私を守ると言うその機能が発揮されたと言う事だろう。


「なまえさん?何か問題がありました?」


『…………………だよ。』


「えっ?なんですか?」


『………大問題だよぉぉおおおおおおおっ!』



訂正。どんな時にも冷静ではいられない。焦る時は焦るし、慌てる時は慌てるさ。人間だもの。至る所から煙が上がる談話室で私の絶叫はこれでもかと鳴り響いた。



その後、この様子を見たザンザス様の逆鱗に触れ、談話室は全壊し、この部屋の修繕費を何処から引っ張り出そうかと、私は電卓片手に頭を悩ませ、眠れぬ夜を過ごしたのだった。



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