生存確認




「なまえはまた仕事部屋かぁ?」


任務から戻り、ボスへの報告を終えて、談話室へ立ち寄った。
そこには、暇を持て余しているのか、ルッスーリアとフランが優雅に茶なぞ啜っている。


「言われて見れば、今日はまだ見てないわねぇ。」


「そうですかー?ミーはもう何日も見てませんねー。」


のんびりとそう言いながら手にはティーカップ。随分と優雅に過ごしている奴等もいるのに、仕事部屋に缶詰になっている奴もいる。不憫な物だ。

なまえがヴァリアーへ来て、1週間と少しくらいが経過した。
1日目。中々来ないなまえに、ザンザスの苛立ちが手に取るように分かったので、避難がてら様子を見にエントランスの方へと足を向けた。
何故俺が、出迎えのような真似をとも思ったが、酒瓶やグラスが投げられるよりは大分マシだ。
そんな俺の目に入り込んで来たのは、カス共に囲まれて、一人のカスに睨みを利かせている女の姿だった。なまえの資料には目を通していたので、それが直ぐなまえだと分かった。来ているのなら、早くしやがれと階段を下りようとすると、あいつの額に銃口が向けられた。
優雅に階段なんか降りている場合じゃねぇなと、手すりに足を掛ければ、すぐ近くで下を面白そうに眺めているベルとフラン。
見ていたなら止めてやれ。あいつが死んだら誰があの部屋の処理をするのだと溜息を吐きながら、飛び降りた。あくまでも仕事の為だ。


命を助けてやったと言うのに、なまえから礼は無く、その代りに言われたのは隊員の教育がなっていないと言う文句だった。
ふてぶてしいその態度に、殺気を込めて睨みつける。
よく分から無え女に文句を言われる程、俺も落ちぶれてはいない。
髪を一つにまとめ上げ、眼鏡なんざ掛けているこの女は、見た目からして、何ともお固い感じがして、つまらなさそうな女だと言う第一印象。
だが、驚く事に、なまえは俺から視線を逸らすことは無かった。
大抵の奴は、俺が睨みを利かせれば、速やかに視線を逸らし逃げ出すものだ。
殺気はそのままに、ふと脚を見れば、膝から血を流し僅かに震えているようだった。
それでも、その震えを必死で堪え、俺を睨み続けるその女に何だかアホらしくなってきて、俺は殺気を収め、視線を外した。

後から、ベルとフランに珍しい事もあったもんだと騒がれたが、ただでさえ人員不足のヴァリアーで、みすみす見殺しにしてんじゃねぇと殴り付けてやった。

ボスの部屋へと案内してやると、いきなり、スカートの中に手を入れたり、ボスが急に笑い出したりと、驚かされたりもしたが、今まで本部から来ていた奴等に比べれば、中々肝が据わっていて、使えそうな奴だなと思った。
談話室での顔合わせでも、珍しい事もあるもんで、オカマはいいとしても、糞ガキやアホガエルも素直に自己紹介なんてしていやがって、今までとの違いにまた驚かされた。

仕事部屋に案内し、悲惨な状態を目の当たりにしても、任せて下さいと強く言いきったなまえに、ああ、こいつなら大丈夫かもしれないとようやく俺は安堵した。

とは言っても、3日目まではいつ逃げ出すかと気が気では無かった。
あいつが居なくなれば、当然それが回って来るのは俺だ。頼むから逃げてくれるなよと思いつつも、いい意味で裏切られ、なまえはまだヴァリアーに居る。
全ての印象を統合すると、糞真面目の仕事人間。
その印象を裏切る事無く、日夜あの埃っぽい部屋で、懸命に文字や数字と闘っているようだ。あんなに大量に貯めこまれた物等、急いで処理しようとしたって、無駄なのだ。
のんびり気ままにやればいいのにとは思うが、若干な罪悪感が無い訳でもない。
俺だけのせいでは無いが、あの悲惨な状態に自分も加担している事は確かだ。
自分がそうだからと言って、あいつも必ずしもとは限らないが、地味な仕事と言えども、根を詰め過ぎると、中々しんどいものだ。経験から分かるその煩わしさを思い出しただけで、ため息が出る。


「あいつ、生きてんのかぁ?書類にまみれて窒息死とかしてねぇだろうなぁ゙?」


こんな職場であっても、なまえは其処らへんの一般人となんら変わりは無い。
その上、女なのだ。大量の荷物に埋もれ身動き一つ取れなくなってしまえば、何時の間にかミイラ化なんて事も無い話ではない。


「うふ。そう思うなら様子を見てらっしゃいよ。はい、これ。」


ルッスーリアが立ち上がり、何処からともなく持って来たのは、パニーノとコーヒーが入れられたポッド。


「あ゙ぁ?何で俺が。」


「あら、だって部屋に戻るんでしょう?近いんだからいいじゃない。」


お前が持って行けばいいだろうと言う前に、オカマがそう言いながらパニーノとポッドを俺に押しつけて来る。確かに部屋には戻る。剣の手入れもしなくてはならないし、目を通さなければならない書類もある。

まあ、部屋に戻るついでに、生きているかどうかくらい確認してやってもいいかと、それを受け取り、席を立った。

あくまでもついでだからなぁ。







「…珍しいですねー。隊長が他人を気に掛けるだなんてー。」


「本当ね。何か、楽しい事が起こりそうな予感がするわ〜♪」


スクアーロが談話室を出た途端、フランから心底意外だと言葉が零れ、その様子を見て、ルッスーリアが嬉しそうに笑った。











なまえの仕事部屋へ到着し、目の前の一枚の扉をノックする。
が、返事は無い。談話室で自分が言った事がまさか現実になっていやしないかと思い、慌てて先程よりも力を入れて、二度目のノックと同時に声を掛けた。


「ゔお゙ぉい!入るぞぉ!」


すると、中かから何かが崩れ落ちる音と、なまえの悲鳴がわずかに聞こえた。
どうやら生きている事は確かなようだ。何かが崩れ落ちてしまう前までは。


「生きてるかぁ゙?」


ガチャリと扉を開けて部屋を見渡すと、当初よりは、大分スッキリとした様子だった。
この短期間に、ここまで片付けられた部屋を見て、なまえの努力が手に取るように理解出来る。今でもゴチャゴチャしてはいるが、それ程この部屋の有様は酷いものだった。
ふと部屋の奥に目をやると、こんもりと出来ている書類の山。
と、其処から伸びる一本の腕。手が力無い形を作り、助けてくれと物語っている。
持って来た食料を、埃一つなく能率よく仕事が出来そうになっているデスクの上へ置き、俺はその手を引っ張った。
すると、もぞりと、中からなまえが出て来た。


『う…た、助かった。』


出て来たなまえの姿を確認し、一先ず胸を撫で下ろす。
あくまでも、死なれたり怪我をされれば業務に支障をきたすからだ。


そう、あくまでも。



[ 14/50 ]

[*prev] [next#]
[back]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -