幹部フロアの談話室2
ティアラの青年の言葉に驚いた私が、口をパクパクと動かしていると、その青年が、スクアーロ様の方へ顔を向ける。どうなんだよ?とマカロンを頬張りながら無言で聞いている彼に、スクアーロ様が答えた。
「まあ、幹部か、幹部補佐って所か。俺等のやる仕事を任せるわけだしなぁ。」
「じゃあ、幹部って事でいいんじゃないですかー?でないとまたさっきみたいに隊員達に虐められちゃいますよー?」
そう言うカエル頭に振り返る。
『あの、もしかして見ていたのですか?』
「そうですねー。見事に転がる所くらいからですかねー。」
割と最初っからじゃん!だったら、助けろよ!と心の中で叫んでみる。
それを見透かしたのか、ティアラの青年が言葉を挟んだ。
「しししっ。弱いくせに根性だけはありそうだったな。」
貴方も見ていたのですね…。心の中でそう囁き、ため息をつく。
どうやらここは、自分の命は自分で守って行く決まりのようだ。
「俺はベルフェゴールな。王子でいいぜ?」
『ベル…王子?』
「堕王子か、もしくは、王子(仮)でいいですよー?」
「うっせぇ!カエル!」
「ゲロッ!」
ベル…王子とやらが罵声を飛ばし、カエルの頭にナイフが刺さる。
なんともバイオレンスなその状況に私は身体が自然と固まった。
やっぱり、ヴァリアーだなんて、とんでも無い所に来てしまったなと思いながら。
「こいつは、見たまんま、カエルな!」
「違いますー。ミーはフランと言いますー。」
ナイフが頭に刺さっていると言うのに平然とポーカーフェイスで自己紹介をされて、私はあっけに取られる。しかし、茫然としても居られない。誰も突っ込まないと言う事はそう言う事なのだと、突き刺さっているナイフに私も無視を決め込んだ。
『フラン様ですね。』
「ミーはそんな、お偉い感じではないのでー、出来たら様付けは勘弁して下さーい。あ、何なら、フラン先輩でもいいですよー。」
『フラン先輩?』
「おぉー!ミーにも漸く後輩ができましたー…ゲロッ!」
変わらずポーカーフェイスだが、少し感動したような声で言うカエル頭にまた数本のナイフが刺さる。恐ろしい職場だと度々思うが、気にしないと決めたのだから気にしない。
「今まで本部に居たってだけで、なまえはお前より先輩だろ?後輩作ろうなんて、カエルのくせに生意気なんだよ。」
「えー。其処はカウントするんですかー?」
残念そうには全然見えないが、残念そうな言葉を発するカエルさんに、私は笑いながら声を掛けた。
『では…フラン君?で。よろしくお願いします。』
そう自然に右手を差し出すと、門の所では宙に浮いてしまった私の右手は、今度はちゃんと捕まえられた。
「まあ、精々死なないように頑張ってくださーい。」
うん、その言葉は、今は聞かなかった事にしよう。
「じゃあ、私の事も様付けは無しね♪」
『えっと、ルッス姐さん…?』
「って言っても、なまえはルッスと同い歳だぞぉ?」
ルッス姐さんと呼んだ私に対して、スクアーロ様がそんな事を言った。
すると、見事に私の目の前に居た3人の言葉が「「「えっ!?」」」と重なった。
「驚きですー。ロン毛隊長よりは絶対下だと思ってましたー。」
「しししっ。何それ?若作り?」
「まあ!見えないわぁ!ちょっと、肌のお手入れどうしてるの!?」
一様に驚きの声を上げられる。あら?あらら?何よ、皆いい方達じゃない!と、一気に機嫌がよくなってしまう辺り、私も単純である。
「ゔお゙ぉい、その辺にしておけぇ。そろそろ仕事場に行くぞぉ。」
スクアーロ様のその言葉に、仕事部屋への途中で寄っただけだったと思い出し、慌てて立ち上がる。その時、ふとある人物が目に入る。先程私がぶつかった、酷く睨みを利かせていた男の人…。
『あ、あの。あちらの方は…?』
「ん、あれは変態でいいぜ?」
「もしくは、鼻毛でいいですー。」
「んぬぅっ!き、貴様等!」
「んなカスは放っとけぇ。」
「スクアーロ!貴様ッ!」
「まあまあ、落ち着いてレヴィ。この子はレヴィよん♪」
何だか、酷い扱いの彼の名前を、ルッスーリアさんが教えてくれた。
何故そんな扱いを受けているのかは、よく分からないが、私は彼の元へ近寄り右手を差し出した。
『なまえです。どうぞ、よろしくお願い致します。』
「ぬぅっ…よ、ようえ―」
目の前の彼が何か言いかけたその時、私と彼の間に何かが投げられた。
カツンッ!と言った右側を見れば、そこにはナイフが刺さっている。
それを確認して、背中に冷や汗が伝う。
『ひぃっ!』
軽くパニック状態に陥った私が、慌ててナイフが飛んで来た方向を見ると、口元をニンマリとさせたベル王子が、しししっと、彼独特の笑みを浮かべていた。
「悪い事は言わないから、やめとけって。」
そう呟かれた言葉の意図は全く分からないが、突然の事に身が固まってしまった私を、スクアーロ様がまた引っ張った。
「とっとと行くぞぉ。変態が移る。」
散々な言われようなレヴィ様がどんどんと遠くなって行く。
もう仕方がないかと、私は右手を下ろし、ズルズルとスクアーロ様に引っ張られながら、それでは失礼致しますと、談話室を後にした。
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