幹部フロアの談話室




ザンザス様の執務室をそれはもう丁寧に後にして、私はスクアーロ様に付いて歩く。


「心臓を咥えてろってのはどういう意味だぁ?」


『言葉通りの意味です。…しっかり逃げないように咥えておきます。』


突然の質問にそう答えるとスクアーロ様は何とも怪訝そうなお顔をされた。
もうそれ以上は突っ込んで欲しくはない。先程のザンザス様とのやり取りでもう私の心は砕ける寸前なのだ。ああ、そうだ。綱吉様のご友人の元気な彼女の言葉を借りるなら、ブロークンハートですぅ〜!だ。そんなもん私が言った所で可愛げも何も無いが。


『そんな御顔をされていると、折角の美男子が台無しですよ?』


「ハッ。つまらねぇ世辞はいらねぇ。」


別にお世辞のつもりでは無く、本心からだが話題が思惑通りに外れたので良しとする。
しかし、ザンザス様には気を付けなければならない。
この常人離れした世界に足を踏み入れて以来、何故心の中が分かったのかなんて事はもはやどうでもいい。次回からは肝に銘じて同じ過ちを繰り返さないようにする事が大切だ。


『それで、私たちは今何処へ?』


「お前の仕事部屋だぁ。と、言いてぇが先に談話室だなぁ。」


『談話室?』


「お前の仕事部屋も私室も、このフロア。幹部専用フロアだ。先に顔見せを済ませておかねぇと、殺されるかもしれねぇからなぁ。」


そう軽く言ってのけて、ニヒルな笑みを浮かべるスクアーロ様。
はぁ。来て早々、命は無いと言われ、ザンザス様に睨まれて死にそうになり、お次は殺されるかもしれねぇと来たもんだ。もうため息しか出ないが、スクアーロ様の手前グッと我慢する。
しかし、洗礼は受けた!ザンザス様の痛い視線にも耐えた!
もうこれ以上怖いもの等何も無いはずだ!



…………と思っていた。2、3分前までは。

此処だと連れて来られた先には、ヴァリアー幹部の皆様方が居た。
ちなみに、ザンザス様とスクアーロ様以外は様々な噂は聞いた事はあるが、お見掛けした事はない。
失礼致しますと一礼をして、部屋に入ろうと顔を上げた私の目に飛び込んで来たのは、それはもう個性的な面々。


「んまぁ!新人さんね。女の子なんて嬉しいわぁ〜♪」


「なーんだ。つまんねぇ。オバサンじゃん。しししっ。」


「ようこそー。バイオレンスな世界へー。」


あぁ、もうどこ見ていいのか分からないよ。

何だか色鮮やかな方が一瞬で目の前に現れたかと思えば、手を取られブンブンとされている。よろしくねん♪なんて昂揚された御顔で言って下さってはいるが、いい加減腕がもげてしまうのではないかと思う。
オバサンと言ってくれやがったのは金髪のティアラを付けた青年。
ニィッ!と白い歯を見せて笑っている。ここが暗殺部隊でなければ、常人達の巣窟であれば、舌打ちでもかましてやりたい所だ。
そして、バイオレンスな〜の当たりに酷く共感を覚えてしまったが、どうにもその被り物には共感は絶対に出来そうにない、カエル頭の方も一匹…いやお一人。


「ゔお゙ぉい、ルッス。んな振り回してねぇで、脚の怪我を見てやれぇ。」


「あら?やだ本当!スカーフに血が滲んでるわ!こっちへいらっしゃい!」


『いえ、別に大丈夫ですか…うわっ!』


幹部の方に怪我の治療等頼めないと断ろうとすれば、その見るからに力強そうな手でグイグイと引っ張られてしまって、皆さんが座っていらっしゃるソファーへ強制的に座らされた。


「うふふ♪最近晴れの坊やから横奪して来たんだけど、使い所が無くて一度使って見たかったのよねぇ。」


そう言って、上機嫌で小さな箱を取り出し、指にはめられたリングに炎を灯される。
全く見る機会が無かったと言えば嘘になるが、間近で死ぬ気の炎と言われる物を見るのは初めてで、それに見いってしまった。
そうこうしていると、小さな箱から小さなコテ?バターナイフのような物が取り出される。その先にも炎が灯っていた。
一体何をなさるおつもりだろうかと見つめていると、私の傷口にそれを当てようとされたので、慌てて逃げる。


『ちょっ、何ですか?』


「あら、大丈夫よぉ!これで傷口をジュッと焼くだけ、だ・か・ら♪」


ウインクと共に言われた言葉が何とも乱暴だ。この時代にそんな原始的な方法で治療等ありえない。じわりじわりと私は後退していく。するとじわりじわりと間合いを取られていく。ああ、このままでは本当に焼かれてしまう!
そう思った矢先に背中に何かが当った。


『ひっ!!』


慌てて振り返ると共に漏れてしまった声。ぶつかってしまったのは人で、何と言うかすごく睨みを利かせている。


『あ、あの…失礼致しました。大丈夫です…か?』


「ふん!見くびるな。」


非礼を詫びていると、膝がほんのりと温かい。
慌てて振り返ると、しめたとばかりに色鮮やかなモヒカンの彼が炎を私の膝に当てていた。
声に鳴らない悲鳴を上げて、一瞬身体が硬直するがそれは直ぐに解かれた。


『……あれ?痛く…ないですね?』


「うふふ、これは晴れの炎よ。晴れの活性で治癒力を高めるの。」


その不思議な様子を大人しく見守ると、傷はあれよあれよと消えて行く。
なんだか瘡蓋が剥げる時のようなむず痒さを感じた。


『……ありがとうございます。』


「どういたしまして。ほら、お茶にしましょう♪」


またもや強引に腕を引かれて、座り心地の良いソファーに強制的に座らされる。
差し出された紅茶を受け取り、礼を述べて…って此処にいらっしゃる御方は幹部のはず!


『わわ、失礼致しました。幹部の方に!』


何ボーッと紅茶等受け取っているのかと、慌てて席を立つ。


『あの、今日からヴァリアーに移動になりました。なまえです。どうぞ、よろしくお願い致します。』


自己紹介をして頭を下げると、返って来たのは何とも暢気な声だった。


「まあまあ、そんなに固くならなくてもいいわよー。」


「そうですよー。そんな畏まらなきゃいけない相手ではいないんでー。」


立ち上がらせた身体を再び引っ張られて、またソファーにお尻がめり込んだ。
あー、やっぱり高級ソファーの座り心地は違うなー。
なんて、初っ端からカエル頭の彼の口調が移ってしまった。


「私はルッスーリアよ♪ルッスでも、ルッス姐さんでも好きに呼んで頂戴♪」


『はい、ルッスーリア様ですね!』


「あら、嫌だ。違うわ。様なんていらないわよ〜!」


『いや、でも幹部の方を呼び捨て等には…。』


「てか、なまえも幹部なんじゃねぇの?」


『はい!?』


ティアラを付けた青年の言葉に慌てて振り向く。
彼はあーんと、マカロンを丁度口に放り入れた所だった。



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