見透かされた心




とんでも無い所へ来てしまったものだ。


私はこの先、何度同じ事を考える機会があるのだろう。
そんな事を考えながら、重い足取りでゆっくりとスクアーロ様に近寄る。
それはもう、ゆっくりと。
恐怖心から数ミリ単位で。
すると、私がそこへ辿り付く前にスクアーロ様が、ガラスを払いながら起き上がり大きな怒鳴り声を上げ、ツカツカと部屋の中へと入って行った。


「ゔお゙ぉい!何しやがるっ!」


「遅ぇんだよ。」


すると、部屋の中からザンザス様の声。
先程スクアーロ様に何かを投げつけたのはやはりザンザス様なのだろう。
何を投げたのかなんて分からない程粉々のガラスの欠片を踏まないように注意する。
声は少々お怒りのようで、私はブルリと身が震えた。
あぁ、私にも何か投げ付けられてしまうのだろうか…。
あんな勢いでぶつけられてしまった日には、速やかに天国への入口に行ってしまう自信がある。それを思うと、スクアーロ様はやはり凄いのだなと感心した。


「文句ならあの女に言いやがれぇっ!」


「その女は何処だ?」


そう、私はまだ部屋に入ってはいない。扉にすら到達していない。
度重なる恐怖から脚がすくんでしまったようで、ベッタリと床に根をはってしまったようだ。
すると、カツカツ!とブーツの音が私が居る廊下の方へと近付いてくる。


「何してやがる!オラ、とっとと来い!」


そう言って、私の腕を掴み上げたスクアーロ様によって、ようやく足が床から引き離された。
そのままズルズルと引っ張られ、(あぁ、ガラスの欠片がまた、おろしたての靴を傷付けていく…。)ようやくザンザス様のお部屋にお邪魔すると、あの紅い瞳が私を睨み付けた。もう勘弁して欲しいものである。


「遅せぇ。」


『申し訳ございません。門番とエントランスホールに居た隊員の方々に足止めをされまして。』


もう吐きそうである。
この威圧感!圧迫感!
それでも淡々とそう言った私を自分で褒めてやりたいくらい……と思ったが、ギロリと睨まれてすぐに言った事を後悔した。
でもさ、言いたくもなるよね。私だって苛ついてんだ。
急に明日来いとか言われてバタバタさせられて引き継ぎも何もあったもんじゃない。
来たら来たで、新しい靴はボロボロで(高かったのに!)、ストッキングは破けるは、脚は怪我するは。
踏んだり蹴ったり散々だ。
それにしたって、いい加減その鋭い視線を外してくれないかしら。睨まれただけで命を失ってしまいそう。昔よりは図太くなったと言っても心の根っこは小心者なのだ。冷汗は気持ち悪い事この上ないし、いい加減にしないとドッキンコと震えるこの心臓が口から飛び出して逃走を謀ってしまいそうだ。
あぁ〜、出る出る!
本当に出る!


「ぶはっ!」


「『はぁ!?』」


そんな事を考えていると、何故かザンザス様が急に吹き出されたので、思わず驚きを口にすると、それはスクアーロ様も一緒だったのか彼と声が重なった。


「ハッ!おかしな女だ。」


えっと…おかしな女?もしかして、心の叫びがザンザス様には聞こえていたのだろうか?
恐る恐るザンザス様の御顔を伺うと、ハッ!と意地悪そうな笑みを浮かべられた。


「必要な事は全てそこのカスに聞け。後は精々心臓をしっかり咥えている事だな。」


『………Si』


ああ、何て事だろう。最悪だ。
どうやら、ザンザス様に私の心の叫びはしっかりと聞かれていたようで。今更、その事実に驚愕する事は、ボルサリーノの彼のお陰であまり無いが、今までの事を思い返すと少し目眩を起こしてしまいそうだ。
しかし、過ぎてしまった事を悔いてみても、もう遅い。
切り替えの良さが私の良い所だ。私は、宜しくお願い致しますと、ザンザス様とスクアーロ様に深々と頭を下げた。




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