08




『…………。』


「いつまで黙っているつもりだ?」


ヴァリアーを、ボンゴレを裏切る気は更々無い。
それならば、連絡もせず、ましてや会うだなんて止めといた方が賢明なのは分かっている。
確かに、ナナシファミリーには恩義があるが、それは、一世代前の話。この目の前の男が仕えている今現在のナナシファミリーやそのボスには恩も何も無いのだから。


『…父は何処?』


「ようやく、話を進める気になったか?」


ニヤニヤと相変わらず気持ちの悪い笑みを浮かべながら男が言う。
そう、どうしてこの場にノコノコとやって来たかと言うと、こいつ等は、私の父親を盾に取っているからだ。父親とは、時折、連絡を取っていた。
だが、この所、音信不通のままで、胸騒ぎがした私は、実家へと様子を伺いに行くと、そこはもぬけの空だった。
犯人の予想は何となくついていた。どうして、もっと早く手を打たなかったのかと自分の不甲斐無さに酷く後悔した。
予想した通り、父を何処かに攫ったのは、目の前にいる男で。ザンくんの紅い瞳を再び見る事が叶い、約束を果たせたと思っていたあの日の電話で、予想は確信へと変わった。

幼い記憶ではあまり父親に対していい思い出はない。
でも、確かに、あの日まで私は彼に守られていたのだ。様々な事情が分かった今、時折振るわれた暴力等もう気にしてはいない。普段の父からは、私は確かに愛されていた。
父親を守りたい。それでも、ヴァリアーやボンゴレを裏切る訳にはいかない。
頭の中の葛藤は留まる事を知らない。それでも、答えは出さなくてはならない。


お父さん…ごめんなさい。


『情報は渡さない。父親は、力尽くでも返して貰う。』


私は、ついに席を立ち、忍ばせておいた拳銃を手に取った。


「まあまあ、落ち着けよ。」


両手を顔の位置でヒラヒラと揺らし、男がニヤニヤと笑う。
大方、こうなる事は予想出来ていたのだろう。その言葉に焦りは無い。
そんな様子は無視して、私は拳銃を男に向けて、ガチャリと撃鉄を起こす。


「落ち着けって言ってるのによ〜。」


男がそう言った瞬間、私の力が人差し指に完全に伝わる前に、突然辺りが白い煙に包まれた。
突然の事に驚きながらも、左腕で顔を覆うが、間に合わない。
吸いこんでしまった煙に一瞬で身体がふらつく。倒れて行く身体に精一杯力を入れてみるが、それは叶わない。店内を目だけで見渡すと、そこにはマスターも他の客もいつの間にか消えていて、男と私だけになっていた。油断した。もっと警戒心を持っていたら回避出来たはずなのに。
スクアーロ隊長にお前は詰めが甘えんだと、よく言われていたのに…くやしい。


「よお?気分はどうだ?」


煙が晴れて、目に映ったのはいつの間にそんな物を被っていたのか、マスクを外しながら愉快そうに笑う男の姿。


「お前がそう出る事は分かってんだ。なあに、情報を流してくれなくても、充分利用価値はあるさ。」


最低だ。自分の浅はかさに泣けて来る。元はと言えば、父親の事に関しても、私がもっと早く気が付いて対策を打っていればよかったわけで。今日にしたって、もっと警戒心を持っていれば、こんな醜態を晒す事は無かっただろう。ボンゴレやヴァリアーに迷惑を掛ける訳にはいかない。


『―ザン、く…ん…』


それでも、遠い約束に縋ってしまうのは、私が弱いからだ。
もう幼い頃のように自分の身を守れない程弱くは無いだなんてよくも思えたものだ。


「ゆっくりおネンネしてな。いいように使ってやるからよ。」


そんな言葉を聞きながら、私はただ、その男の憎たらしい顔と自分の弱さを呪う事しか出来なかった。

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