07




「ボス、娘がいました。こいつを売れば、ちいたぁ金になります。」


私を外に連れ出した男がそう言うと、大きな葉巻を咥えたボスと呼ばれた男が黒いサングラスを外し私を見つめた。その様子を見ていた私は、恐怖に包まれていたはずなのに、こんな事を言ってのけた。ここから、私の人生は変わったのだ。


『あの、おじさん達、まふぃあですか?』


「糞ガキ、誰に口聞いていやがる!」


そう言った男を、葉巻を持った手で制しながら、初老の男性が私に返事をした。


「ああ、そうだ。それがどうかしたかい?」


『わたし!まふぃあになりたいの!!』


「面白い事を言う子だね。それは何故だい?」


『ぼんごれにお友達がいるの!約束したの!』


「ほお?ボンゴレに?友との約束を守る為に?」


『うん!だから、まふぃあになって、ぼんごれになるの!』


「ハッハッハッ!そりゃあいい!」


私の言葉を聞いた初老の男性は愉快そうに笑う。
慌てて側に居た男が割って入った。


「ボス、まさか?」


「今決めた。この子は私が面倒みよう。それに、こんな小さい子をお前はどうしようというのだい?」


「そんなっ!こいつは…」


「お譲ちゃん、ボンゴレには私の古い友人がいる。その約束の手伝いが出来るかもしれないよ?私と一緒にくるかい?」


『本当!?』


「さあ、決まりだ。友人と言えども、ここは余所様の縄張りだ。そうと決まれば行くぞ。」


初老の男性は、男を一睨みして、私を隣に座らせた。
渋々と言ったように、男は車の外へ出て、引き上げだ!と声を上げた。



私を迎え入れてくれたナナシファミリーは、ボンゴレと同盟を結んでいるマフィアだった。
ボス同士に親交があり、ボスは、度々私にザンくんの事を教えてくれた。
直ぐにでも会いに行きたかったが、それは叶わなかった。


「なまえが立派なマフィアになって、ボンゴレに入れるまでになったら、私が手を回してあげるから、それまでは頑張りなさい。」


と、私を拾ってくれたボスに言われたからだ。
友との約束を大切にする私を、このボスは酷く気に入ってくれて、私に様々な事を教えてくれた。
私は次々と与えられる知識やスキルをどんどん吸収していき、更なる高みを目指し、貪欲にそれを欲した。その間に、ザンくんは、ボンゴレでは無く、ヴァリアーのボスになったと聞き、私の目標は、ヴァリアー入隊へと変わって行った。
そんな時、もう恩人と言えるであろうボスが病に倒れた。
病床に訪れた私に、ボスは、ファミリーを抜けるように伝えたのだ。


『でも、私はまだまだボスに教わる事が残っています。』


「見ての通り、私はもう先が長くは無い。私の目が黒い内にファミリーを抜けるんだ。」


その言葉は、私を心配しての事だった。温厚派で知られるボスには危惧している事があった。
それは、彼の後を引き継ぐ予定の実の息子。
温厚派のボスとは正反対に、常に野心を内に秘め、その為にならば手段を選ばないような男だった。


「息子はきっと、ボンゴレを裏切るだろう。そうなっては、君の約束が叶わなくなるかもしれない。今ならば、まだ間に合う。ボンゴレ9代目には伝えてある。あとはなまえの思うタイミングでヴァリアーに入りなさい。」


それがボスを見た最後になった。その日の内に、私はナナシファミリーを抜けたからだ。
彼のお陰で、私は裏切り者になるでもなく、追手がかかる事も無かった。
ただ一つの心残りは、私がファミリーを抜けて数ヵ月後、亡くなったボスの葬儀にすら出られなかった事。組織を抜けた私がその地に足を踏み入れる事は出来ない。
それでも、そのナナシファミリーの動向は陰ながら伺っていた。
最近、不審な動きが目立っているなと警戒していた矢先に、この目の前の男。
幼い私の腕を取り、マフィアになるきっかけを作った男から連絡が来たのだ。

ボンゴレをその地位から引き摺り落とし、その座に取って変わろうと、恩人のボスの息子がついに、動き出したのだ。


「さあ、そろそろ考えはまとまったか?」


空になったカップをソーサーの上に置き、目の前の男がニヤリと嫌な笑みを浮かべた。


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