06




穏やかな日差しが降り注ぐ、誰もが陽気な気分になるような日の午後。
私はそれとは正反対の表情で、一枚の木の扉を開ける。チリン…と扉に取り付けられた鈴の音が窓が少なく、陽の光があまり入って来ないのであろう、薄暗い店内に響いた。


「よう!こっちだ、こっち。」


店の奥から聞くだけでうんざりとするような声が私を呼ぶ。
その声の主は、先日私に電話を掛けて来た髑髏マークの人物。
なぜ髑髏かは、彼の右頬に髑髏のタトゥーが入れてあるから。いつ見ても悪趣味だ。
出来れば、もう二度と会いたくは無かった。それは無理な事だとは分かってはいたものの、生理的に受け付けないのだから、そう思っても仕方が無い。


「暫くだな。どうやら上手くやってるみたいじゃねぇか。」


普段、イケメン暗殺者集団に囲まれて生活しているからか、本当に目の前のこの人物の下衆な顔が気持ち悪い。私は、その言葉を無視して溜息を吐きながらその男の前に座った。


「つれねぇなぁ。仲良くしようぜ?」


嫌悪感を隠しもせずに不愉快そうな私の顔を見て、ニヤニヤとした笑みを男が浮かべた。


『さっさと本題に入って。』


慣れ合う気は無いと、私が不機嫌そうにそう呟くと、おお怖いと茶化して見せる。


「ま、じゃあ、単刀直入に。ボンゴレと、ヴァリアーの情報を寄こせ。」


『……それは出来ない。』


「あぁ?余り俺やボスを怒らせるなよ?」


予想が出来た本題に、否定の意を表すと、目の前の男は鋭い眼差しを私に向ける。
先程までのふざけた態度は一変して周りの空気が変わる。


「今まで誰が面倒見て来てやったと思ってんだ?あ?」


『……………。』


「まあいい、少し時間をやろう。マスター!」


返答をしない私にそう言って、男はエスプレッソを二つ注文した。


ヴァリアーの門を叩く数年前、私は一つの組織に所属していた。
一般人が、人を殺める方法を独自に習得し、暗殺部隊の中でも一流を誇るヴァリアーになど入隊できるはずも無い。私が暗殺者として身に付けた知識やスキルはこの組織のお陰だと言っても過言では無い。
始まりは、まだ幼いあの日。ザンくんと別れた数年後。
ある日、私の家に強面の男性が数人押し掛けて来た。所謂、借金取りと言うもので、私の父が作ってしまった莫大な借金の取り立てだった。
男達が家に入り込んで来る前に、私は父親にクローゼットの中に押し込められた。
けして声を出してはならないと念を押されて。
たまに癇癪を起し、私にも辛く当っていた父だが、悪い人では無かった。
大人になって思えば、日々の生活に追われ、首が回らない切迫した状況に彼も苦悩していたのだろうと思う。
隙間風だらけのボロボロの扉を蹴破られ、怒鳴り声を上げながら男達が侵入してきた。
幼い私は、目を瞑り、耳を押さえてただただ、震える事しか出来なかった。
耳を押さえていても、聞こえる汚い罵声に早く終われと心で念じる。
必死に耐えていたその時、ガタンッ!と凄い音がして、私のいるクローゼットが揺れた。
その拍子に、もともと建てつけの悪かった扉が開いてしまった。
大きな音の正体は直ぐに私の目に入り込む。男達にやられたのであろう、頬を腫らし、口の端から血を流しながら、悲痛な声を漏らしている父親が倒れていた。


『パパーッ。』


私は必死に父に抱きついた。そんな私を見て、父親は今まで見た事もない絶望感漂う表情をして、必死に私を自分の後ろへと隠した。


「なんだ?娘がいたのか?」


一人の男が発した言葉に、何故だか背中がひやりとした。


「頼む。この子だけは。頼む…。」


父親が必死な声で懇願する。どういう状況なのか、幼い私には理解は出来なかったけれど、自分の身が危険に晒されている事だけは、なんとなく分かり、恐怖が頭を支配する。
その瞬間、目の前の父の背中が崩れ落ち、私は誰かに強く腕を取られた。


「今までの利息分にこいつは貰っていくぜ?」


あれよあれよと、私は引っ張られるがままに、家の外へと連れ出される。


「なまえッ!」


今までに聞いた事もない父の声が、大きくなった今でも私の耳を離れない。
外に止まっていた黒塗りの大きな車に押し込められると、そこには初老の男性が居た。


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