05




『んっ…。』


写真を眺めていた私は、何時の間にか眠ってしまったらしかった。
ボーッとする頭を起こし、ふと手元を見ると、私の大切な宝物はまだその中にあった。
グシャグシャになってしまってはいけないと、のそりとその写真を仕舞いにベッドを下りる。


『なんだか、懐かしい夢を見たような…。』


引き出しに入れる前に、もう一度その写真の中で光る紅い瞳を見つめる。
不機嫌そうな顔は相変わらずだ。小さな頃に比べたら、周りの変化は著しい。
そんな中での変わらない物が嬉しくて、小さく笑いながら静かに引き出しを閉めた。

幼い頃に離れ離れになってしまった、自分よりも少し年上の少年は、その頃とは見違えるくらいに立派な青年へと成長していた。それは、私も一緒だけれど。
今では、そんな事を本当に言ったのか?と疑いたくなるような小さな約束を守るべく、今、私はここに居る。


『やっと、約束果たせたんだな…。』


いつも貴方の目に見える所に。その約束の為だけに私は今まで生きて来た。
苦汁をなめる貧困な毎日。時折、私を恐怖に陥れる父親の癇癪。
その全てに耐えられたのは、あの温かい手の温もりがあったからで。
突然失ってしまった温もりを取り戻すべく、躍起になって我武者羅に努力した。
今日、あの紅い瞳を再び見る事が出来て、ついにここまで来たのだと実感出来た。


『約束を果たしたその後の事を考えた事なかったな…。』


小さな約束。私にとっては人生を賭けるにまでに至った、大きな約束。
その為に頑張って来たのだが、その先には何があるのだろうか。
ザンくん…いや、ボスは約束どころか、私の事すら覚えてなさそうだ。
それは、薄情だとかそういう事ではない。あんな大昔の小さな頃の話だなんて、大抵の人は覚えてはいないだろう。守ってくれるって約束したんだから、守って下さいだなんて、言える訳が無い。……と言うか、努力の結果、もう幼い頃のように自分の身を守れない程弱くは無い。
庇護欲などまるで沸かない程に、思えば私もふてぶてしく育ってしまったものだ。

再びベッドへとダイブする。思ってもみなかった脱力感が私の身体を支配する。


『ああ、そうか。淋しいんだ。私は。』


そう、人生を賭けた約束を達成出来た事を共に喜ぶ相手が居ない事が淋しいのだ。
でも、そんな思考は私の勝手な我儘だ。こうなる事は薄々心の片隅でも思っていた事だ。


Ririririri…


何となく、センチメンタルな気持ちに陥っていた所に、突然、私の携帯が鳴り響く。
誰だろうと、画面を見ると、髑髏のマーク。
自分でそう登録しているからなのだけれど、その得体の知れない髑髏マークに呼吸が乱れた。


『……はい。』


「よう。久しぶりだな。」


電話を掛けて来た人物の声に、たまたま窓ガラスに映った自分の姿を見ると、まるで苦虫でも噛み潰したような顔をしていた。





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