04
『ザンくーん!』
いつものように、少女が小さな脚で駆けて行く。
肩で息をして、白い息を吐きながら呼吸を整えキョロキョロ辺りを見渡しても、いつもの場所に、あの少年は居ない。
『…ザンくん?』
不思議に思いながらも、少女は少年を探しながら、彼の家へと歩を進めた。
とうとう、少年を見つける事は出来ず、彼の家へと到着する。おそるおそる、その扉をノックしてみると、ドアは簡単にキィッと音を立てて開いた。
中の様子を伺おうと少女がそっと覗きこむと、そこには人どころか、生活に必要な家具でさえ何も無かった。
『………。』
少女は言葉を失った。
昨日居た友達が、今日は居ない。だが、この町では度々ある事だった。
家を間違えたのだろうかと、現実を直視出来ない少女が、外へと通じる扉を開けようとした時、少女より先に、誰かがその扉を開けた。
危うくぶつかってしまいそうになったものの、もしかしたら、お目当ての少年かもしれないと、曇りがちだった表情に再び笑顔を灯らせて、期待の眼差しで部屋に入って来る人物を待つ。
「あぁ?コラ、ちび!勝手に入るんじゃねぇ!」
部屋に入って来た人物は、お目当ての少年とは違い、知らない中年の男だった。
『う…っ。ザンくん…ザンくん…。』
堪らず少女が大粒の涙をポロポロ零す。
「あ?お前、あの糞ガキのダチか?」
『おじさん、ザンくん知ってるの?』
「あいつは、もうここには居ないし、もう戻って来ねえよ。分かったらとっとと帰りな!」
少女は涙を堪えて、この見ず知らずの中年男性に少年の居場所を聞き出そうと、必死にすがりつく。突き飛ばしてみても、小さな身体を必死に起き上がらせて同じ事を聞いて来る少女に、ついに折れたのか、男が口を動かした。
「しつけぇなぁ!あいつは、ボンゴレのお偉いさんに連れてかれたんだ。」
『…ぼんごれ?』
「ああ、ここら中を取り仕切ってるマフィアだ。」
『まふぃあ…。』
「ほら、分かったなら出て行け。もう来るなよ!」
そう言うと、男は少女を外へと追いやり、シッシッと手で払って見せた。
『ぼんごれ…まふぃあ…。』
いつも俺の目に見える所にいろ『やくそく!したんだもん!』
再び少女が小さな脚で走り出す。
人に与えられる、短いようで長い人生の中で、幼少期など一瞬の出来事だ。
この一瞬の時で得た物が、少女のこれからの人生を左右してしまった事など、誰も予想出来なかった事だろう。
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