02




トンッ…。


『えっ?』


想像していた衝撃は来なかった。変わりに、左肩に軽い重み。
それでも、予想が外れてしまい、気が抜けたのか2、3歩後ろへとよろめいた。
すると、下がった先にはソファーの肘当て。
見事にそれに足を取られ、私はそのまま、後ろ向きにソファーへと倒れ込む。


『あたっ…。』


実際にはフカフカのソファーなので、そんなに痛みは無かったが、反射的に出てしまった言葉を合図に身体を起そうとすると、目の前に再びボス。
陽の光を遮って、私に圧し掛かるボスの表情は見えない。
サワサワとボスの手が私の腰を弄る。シャツの裾が出されてしまい、周りの空気が直接肌に触れる。放心状態の私の首筋にボスの舌が這った時、そこから、ゾクリとした感覚が頭から爪先まで電流のように駆け巡る。


『――ッ!ちょ、ボス!?』


「………なんだ?」


なんだって、何だ?何事だと言いたいのは、こっちだ。
必死に身を捩りながら、ボスの肩を押しのけてみるけれども、当然とういうべきか、ピクリとも動かない。それでも、懸命にその行為を続けていると、ボスは鬱陶しくなったのか、必死に自分の身体を押しのけようとする私の手を取り、今度はその指先に舌を這わせた。
ねっとりとした生温かいその温度に、どうしていいか分からない私は言葉を無くしてただ茫然とするしかなかった。


「誘って来たのはテメェだ。」


悠然とそう言ってのけたボスに、もう私の頭はパンク寸前だ。


『なっ、な…「ゔお゙ぉい!ボスいるかぁ?」


その時、困惑しっぱなしの私の言葉に被さった相変わらずの大きな声。
た、助かった。と思いつつも、この有様を見られてしまうのは、それはそれで恥ずかしい。


「ゔおっ!?わ、悪りぃ。」


全然悪くないですよー!と、突然部屋に入って来たスクアーロ隊長の方へ視線をやると、彼は丁度ボスが投げた"何か"によって、吹っ飛んで行く瞬間だった。


「だあぁああ゙!何しやがるっ!」


「るっせぇ、カス鮫!」


そんな二人の声を聞いていた私の身体が急に軽くなる。
ボスが立ち上がり、またいつものように、椅子に座りその長い足を机の上に放り出す。

取り敢えず、自由になった我が身を起こし、素早く服装を正した。
















「悪かったなぁ゙。」


まともに取り合ってくれないボスに諦めたのか、早々にボスの執務室を後にして、廊下を歩くスクアーロ隊長にそう声を掛けられた。


『悪いというか、助かりました…。』


何となく、気恥しくて、俯きがちにそう答えると、意外といったような声で問いかけられる。


「なまえが迫ったんじゃねぇのかぁ?」


『そんな、滅相もない!!』


でも、誘ったのはお前だと言っていたボスを思い出す。あれ?そうなのかな?さ、誘ってしまったのかな?でも、ちょっと瞳に吸い込まれて近寄っただけなのに…。

そうぶつぶつ考えこんでいると、スクアーロ隊長が、何がおかしいのかよく分からないけれども、笑いながら続けた。


「珍しい事もあるもんだなぁ゙。」


その言葉の意味はよく分からなかったけれど、いらぬ誤解が取れた事に一先ずホッとした。
それでも私の心臓はまだ落ち着かず、ドクドクと先程までの緊張を未だに表している。


『それでは、私はここで。』


「お゙〜。気が向いたら相手してやれよぉ゙。」



ニヤついた笑みを浮かべるスクアーロ隊長を軽く無視して、そそくさと自分の部屋へ戻る。

部屋に着いた途端、大きく息を吐いた。
心なしかまだ心臓がドキドキと五月蝿い。
兎に角、落ち着かなければともう一度深呼吸をしていると、目に入った机の引き出し。
それを徐に開けて取り出したのは、一枚の古い写真。まだ幼い子供の頃、道案内をしてあげた旅の人に、一枚撮ってあげるとプレゼントされたポラロイド写真。貰った瞬間から、一生物の大切な宝物になった。
写真なんて初めてだった私は、恥ずかしそうにしながらも満面の笑みで笑っている。そんな私の隣には、仏頂面の一人の男の子。


『やっぱり、覚えてないんだろうなぁ。』


その懐かしい写真を掲げながらベッドへ身を沈める。
久しぶりに見た紅い瞳は昔とちっとも変っていない。
それがなんだか嬉しくて、私はいつまでもその写真を見つめていた。




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