01



この部屋はいつも、少し暗い。

そんな薄暗い部屋の扉を開けて、奥へと進むと、そこには安定感すら感じる程に、いつもと変わらぬ様子でボスがドシリと存在する。


『ボス、お疲れ様です。報告書、ここに置いておきますね。』


彼の顔色を伺いながら一声掛けて、紙の束をボスの座るデスクの上へ。
変わらず彼は一言も声を出さないし、目を開けて私を見る事も無い。
まるで、銅像のようにピクリとも動かないボスを見て、思わず苦笑した。


「…何だ?」


それでは失礼しますと踵を返そうとした時、ポツリと不機嫌そうな声がした。
反射的に声がした方に視線をやると、少し薄暗い部屋にボスの紅い瞳がよく際立っていた。
急にボスが声を発したものだから、私は驚いてしまって身が固まる。
ヴァリアーに入隊してこんなに間近で彼の瞳を見たのは初めての事で。視線が交わったのも初めてかもしれない。


「テメェは誰だ?」


再び聞こえた不機嫌そうな声に、私はまた苦笑する。


『なまえです。ボス、初めて私の顔をまともに見られたのではないですか?』


私がヴァリアーに入隊したのは、丁度1年前くらい。
リング争奪戦とやらがあったその後。ヴァリアーは本部の監視の元、少々重苦しい雰囲気に包まれていた。処罰がこれからどうなるのかとヴァリアー全体が意気消沈している時に、私はヴァリアーの門を叩いた。こんな時期に自分から入隊したいとやって来た私は、好奇の目に晒される事となる。とは言え、万年人手不足のようで、私は易々と入隊する事が出来た。
暫くは自粛ムードだったものの、それが過ぎてしまえば、今度は様々な任務が舞い込んで来る。
罪は身体で償え。忠誠は行動で示せと云う事なのか、随分、面倒臭い任務から大掛かりな任務まで、毎日がとてもスリリングだった。
それらが漸く落ち着いた頃に、スクアーロ隊長と、ルッス姐さんに声を掛けられた。
必死の努力が報われたのか幹部候補となった今、ここ2、3ヶ月くらい前から、私は報告書をボスの部屋まで持って来たりと度々ここを訪れている。
もちろん、最初にスクアーロ隊長がボスへ私を紹介して下さったが、その時も、ボスは目を閉ざし、興味なさげに「好きにしろ。」と言っただけだった。
私がいつ訪れても、ボスの瞳を見る事は今日まで無かった。
いつもと同じ場所に、いつもと同じように鎮座しているボスに、ジッとしている事が出来ない落ち着きの無い私は、その様子にひたすら感心していた。


紅い瞳。その色は何を示しているのだろう?
轟々と燃え盛る怒りの灯火?それとも、ルビーのような深い情熱?
貴方のその瞳から見える景色はどんな世界を映し出しているのだろう?


「おい。」


ボスの低い声色が私のすぐ傍で響く。なんでこんなに近くでその声がするのだろうと思えば、目の前にボスの顔。


『わっ!ご、ごめんな…さい。』


慌てて、身を引く。ボスの瞳に囚われ過ぎて、私はその瞳に吸い込まれるように、ボスに近付き過ぎてしまったらしい。
ガタッと椅子が引かれる音がして、ボスが立ち上がる。
静かな部屋に響くブーツの音と共に、私の心臓が激しく波を打つ。音が鳴りやむ頃には、呼吸が止まってしまいそうだった。ボスの表情は、いつもと変わらなさ過ぎて、怒っているのかどうかも分からないけれど、―――怖い。

スクアーロ隊長のように殴られてしまうのだろうか?
生憎、私は彼のような物凄く固い石頭は持ってはいない。

呼吸さえままならないその状況に、喉が上下し、ゴクリと音が鳴った。
ボスの右腕が動く。衝撃に備えて、私は固く目を閉じた。

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