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『すごい…。』


そう感嘆の言葉を漏らすと、ボスは大した事では無いような顔をして、部屋の出口へと足を向ける。私は慌ててその背中に声を掛けた。


『………あの、』


「話は後だ。」


『え?』


「瓦礫に埋もれたけりゃここに居ろ。」


確かに、先程から地下にあるこの部屋の天井はパラパラと今にも崩れ落ちそうになっている。
慌ててボスの後を追おうとすると、鈍い痛みが身体を走った。
どうやら肋骨が何本か折れているようで、たまらずその場へしゃがみ込む。
こんな所で瓦礫に埋もれるわけにもいかないし、まだ父を見つけてもいない。
やるべき事はまだ沢山あるのに、動けない自分が心底情けない。


「チッ!」


ボスの舌打ちが聞こえる。きっと呆れているに違いない。
勝手にナナシファミリーの人間に会いに行って、易々と捕まり、ボンゴレやヴァリアーを巻き込んだ挙げ句にこのあり様。
情けなくて悔しくて、勝手に出てくる涙を必死に堪える。ここで涙なんか見せた時には益々ボスを呆れさせてしまう。もうこれ以上は情けない姿を見せたくない。そう思って涙腺を押しつぶすように、ギュッと目を固く閉じた時、ふわりと宙に浮く感覚がした。


『……ボ、ス?』


「カスが。」


間近に見えるその紅い瞳は、悪態を吐く口とは反して優しい色をしていた。
ボスは私を両手に抱えて、カツカツと軽快にブーツを鳴らす。
慌てて身を捩ろうとして、また鈍い痛みが私を襲う。そんな様子を見て、大人しくしていろとボスが静かに睨んで来たので、私は諦めて大人しく運ばれる事にした。
抱きかかえられた場所から、ボスの温もりが私の身体に伝わってくる。
冬の寒い日に、必ず私の手を取ってくれたあの小さな温もりは大きなものへと変化していたけれど、何も変わっていない。それがどうしようもなく嬉しくて、瞳から溢れ出ようとする雫を今度は我慢する事はしなかった。


暫くボスの温もりを感じながら静かに頬を濡らしていると、地下から抜け出し、屋外へと出ていた。周りの有様は酷いもので、もう、いつナナシファミリーのアジトが崩れ落ちてもおかしくは無い状態だった。


『あっ…、まだ父が!』


「カス鮫が見つけ出した。心配無え。」


流石と言うか、こちらの事情は全て把握されているようだ。
ヴァリアーの情報力、行動力に改めて感心しつつも、感謝の気持ちで一杯になった。
6人で攻め込んで来たと言っていたが、きっと、ボスと幹部の皆さんだと思う。
本当に、迷惑の掛け通しで頭が上がらない。
黒塗りの車に乗せられて、ボスと二人アジトへと戻る。
ボスはもう何事も無かったかのように、手にはグラスを持っていて、まるで今までの事が夢のように感じた。実は全部本当に夢で、目を覚ませば、右手に大切な宝物を持ったままベッドの上にいるのかもしれない。そんな事を思いながら、遠く離れて行くナナシファミリーのアジトを見つめていると、けたたましい音と共に爆発し崩れて行くのが見えた。

変わらず手に持ったグラスをカランッ…と鳴らすボスをもう一度見て、心も体もすっかり疲れ果ててしまっていた私は、どうか、これが夢ではありませんようにと意識を手放した。




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