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―――“死”と言うものは、もっと痛いものかと思っていた。


案外、死の間際に受ける痛み等感じないものだ。外す事無く急所に弾丸を撃ちこんでくれたのだろう。でも、少し感動してしまったこの思いも、もう誰に伝える事も出来ない。
終わったのだ。全てここでおしまい。
死を迎えると、肉体は勿論だが精神も、もしかしたら消えて無くなってしまうのではないかと思っていたが、そこは取り越し苦労のようで、意識は消えてはいない。
よかった。これでナナシファミリーの先代への挨拶も本当に出来るかもしれない。
……でも、あの世へ行くその前に、あの大人になった紅い瞳を冥途の土産にもう一度見て行くのもいいかもしれない。







「おい。」



聞き覚えのある声に閉じたままだった瞼を押し上げる。
凄いな。死んで魂となった今、自分の行きたい所へ一瞬でワープ出来るようになっているのかもしれない。開けた目に一番に映り込んで来たのは、私がたった今、見たいと願った紅い瞳。




「ボサッとしてんな。」





紅い瞳が私を睨みつける。でもそれは威圧するものとは違って、ちっとも怖くなんてなかった。

ああ、よかったこれで思い残す事無くあの世へ旅立てる。そう思うけれど、一つ残る疑問。


『…私の事見えるの?』


知らなかった。ザンくんが霊能者だったなんて。でも、昔から手から炎を出したりと、普通とはかけ離れていたから妙に納得してしまう。それとも、これも魔法なのだろうか。
なんたって、ザンくんは魔法使いだからね。





「……何言っていやがる。」


不機嫌そうに言って、ザンくんが何かを放り投げた。
不思議にそれを見つめると、私が頭突きをお見舞いしてやった男が、「うっ…」と小さく呻き声を上げていた。よくよく観察すれば、彼の身体からは血がドクドクと流れ出ていた。
状況が今一掴めない頭で周りを見ると、ここはまだ、ナナシファミリーの地下室。

ふいに、手足がじわりとした。きつく縛られていたロープから解放されて、手足に温もりが戻って行く。





『…私、生きて…る?』


そう言うと、私をロープから解放してくれたザンくんが私に背を向け立ち上がる。






「……俺の目が届く内は、お前は死ね無えよ。」





その広い背中越しに聞こえた低い声は、私の頭の中でグルグルと回る。

今、なんて言った?

そんな事はありえるの?

だって、全然私に気付いていなかったじゃない。ヴァリアーで初めて言葉を交わした時、お前は誰だ?って言ったじゃない。
ありえない。信じられない。だって、もう大昔の話だよ。
そんな小さな子供の頃の話なんて覚えているはずが無い。
でも、それでもやっぱり、今、頭の中で何度も何度も反復させてしまうその言葉は…


「ハッ。俺をそこらのカスと一緒にすんじゃねぇ。」


私の考えている事が分かったのか、思いを口にしなくても、そんな言葉が返って来た。
…確かめなきゃ。考えたって否定的な事しか出て来ない。それを覆すような言葉が聞こえているのに一向にそれを信じられないこの思考を納得させる為にはそれしか無い。


「これは、これは、ボンゴレ10代目になりそこねたザンザス様では無いですか。」


私が口を開こうとした時、もうすっかりその存在等忘れていた現ナナシファミリーのボスが愉快そうな声を上げた。言おうとしていた言葉を飲み込み、自由になった手足で私もようやく立ち上がる。ヴァリアーのボスを目の前にどうしてそんな態度で居られるのか不思議な程に、癪に障る相手を小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら彼は続けた。


「いつぞやは、残念でしたねぇ。まさか、中学生なんぞに負けるとは、普段の貴方の暴君っぷりからは、思いもよりませんでしたよ。」


そう小さく笑いながら、再びこちらに銃口を向ける。
そんな時、ふいに私の頭が何かを察知する。それが何かを考える事なく、反射的に背中越しに隠れて見えない、ザンくんの右手に意識を集中させた。


「言いたい事はそれだけか?」


そうザンくんが言うと、彼の右手の辺りに光が灯る。
懐かしいはずのその光は、私の思い出の中にある物とは全く違う物になっていた。
あの時とは比べ物にならない程、大きく力強い。


『……憤怒の炎。』


ボンゴレU世が灯したと言われる憤怒の炎。ザンくんが出す光はその炎なのだとナナシファミリー先代に以前聞いた。

カッとその眩い光を益々強めたと思うと、もう私達の目の前には、誰も居なかった。

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