03.世界はたいそう広いんだってさ



「明日からゴールデンウィークだからってハメ外すなよー。とりあえずは今日の授業に集中すること!以上号令!」

クラス委員の「起立、礼」という号令と共に朝のHRが終了する。そう、明日からゴールデンウィークなのだ!休みは嬉しいがこいつ等と遊べないのは寂しいな、なんて思いつつ2人の方を見る。私のうきうきのテンションとは真逆で、項垂れる2人。え、何なのこいつら。それとなく理由を聞くとゴールデンウィークはどうせ部活だ…。休みなんか1日しかない…。あの地獄の練習が続くのか…。とぶつぶつ呟いている。さすがテニス部。毎日部活かぁ…。私が所属する家庭科部は1日だけ部活あるだけだからな。ま、頑張れよ。と2人に投げかけ次の授業の準備をする。



「で? 何でこんな事になったの? 俺が育ててた花って知っててわざとやったの?」
「そ、そんな事は…」
「ちゃんと聞いてんの?」
「聞いてますうう!!」

目の前には笑顔に幸村様。はい、目が笑ってません。その笑顔が怖いです。
こんな事になったのは数分前、昼食を食べ終わり昼休みに何をするのかと悩んでいると丸井が仁王のロッカーを漁り始めバレーボールのボールを発掘したのだ。何であるのか聞くと体育終わりに片すの忘れたから持ってきたらしい。どんな理由だよ。そのボールを使って中庭でバレーをしようという話になったのだ。暇を持て余していた私達は速攻承諾し中庭に移動。あまり人が多くなかったので早速バレーボールを始める。

「やっべ、仁王でかいかも!」
「任せんしゃい!」
「高身長ずる! 丸井いくよー!」

3人で輪になるように、軽いパスを繰り返している。体育でぐらいしかやってないのでそんなに上手くはないが2人とも運動部なだけあってなかなかサマになっているようだ。ボールを落とさずラリーを続ける。だが、バレーをやっていたら誰しもスパイクを打ちたくなるだろう。私はウズウズしていた。いい感じのボールが来たら思いっきりスパイクを打ってやろうじゃないか!絶好のチャンスを伺っていると仁王がいい感じの高さでトスを出してきた。チャーンス!!そう思い右腕をボールに向かって思いっきり振り下ろした。振り下ろしたのが悪かった。


「うっわ、このノーコン!!」


そうボールは丸井も仁王も居ない、花壇の方へ飛んでいってしまった。

「あ」

そしてそのボールは見事に花壇に入ってしまい、咲いている花を荒らしていった。うわぁ、やっちまったよ。どうしよう。園芸委員に怒られるわこれ…。

「あーあ藤木のせいじゃな」
「うん、藤木のせいだ」
「お前等一緒にやってたから同罪だろ!!」

完全に私のせいにしているがこいつらも同罪だ。ちゃんと取らなかったのが悪い、うん。どうしようか、簡単に直すかと花壇の前で話していると後ろから声をかけられた。

「何してるんだい?」

その声は、まさか…
ギギギと効果音がつきそうなほどぎこちない動きで後ろを向く。

「俺が育てた花の前で何してるのかって、聞いてるんだけど?」
「幸村…あー何か丸井と仁王が?ボールで遊んでたから来てみたんだけど…何かボール入っちゃったみたいだよ?」
「てめええええ! スパイク打ったのはてめえだろうが!!」
「さいっっあくな女じゃな!!」
「うるせえよ! 私まだ死にたくない!!!!」
「へぇ…3人で遊んでたらボールが入って花を荒らしちゃったんだね?」

妙に落ち着いてる声が逆に怖い…。ゴクリ、と唾を飲み込む。

「ちょっとそこに座れ」

幸村様の一言により中庭に正座をするハメになった。そして先ほどの台詞を投げかけられる。
そりゃあ、幸村が育てた花があるなら中庭でなんかやらないよ…。なんて口に出しちゃったもんだから。そもそも場所の問題じゃないよね?って。おっしゃる通りですうう!!!

「お前等は何回俺等テニス部にどれだけの迷惑かけたら気がすむの? 何年もお前等の尻拭いしてるんだけど」
「す、すみません…」
「仁王と丸井は今日の練習メニュー倍にしてもらうから」
「ではそのメニューは俺が考えよう」
「げっ…」
「参謀…」

最悪なタイミングで柳まで現れた。まだ真田が居ないだけましだろう。何でこんな所にと聞くと何やら面白そうな予感がしたからだ、と言われた。データマンが勘に頼るなよ…と呟くと普段は勘には頼らないがなと笑われた。ところで精市。と柳が思いついたかのように口を開く。

「ちょうどいい機会だ。あの件、藤木に頼んでみてはどうだ?」
「…藤木に?」
「今回の件の償い、という形でだ。他に頼めそうな奴も見つかっていないんだろ?」
「まぁ、そうなんだけどさ…」

え、何。あの件って。私は何をさせられるんだ…。嫌な予感しかしないんですけれども。少し考えるような素振りを見せて幸村は口を開いた。

「藤木、今日の放課後テニス部の部室に来てくれる? 仁王、ブン太ちゃんと連れてきてね」
「すみません、御断りします」
「花壇荒らしておいて拒否権あると思ってる?」
「喜んで!!伺います!!!」

言葉は変えてるけどね、顔にはお前に拒否権あると思ってんのかよある訳ねーだろって書いてありますよ!!!もう放課後テニス部に行くという運命は変えられそうにもないので大人しく頷くしかなかった。あぁ、さようなら私の平和な放課後。




「いーやーだー!」
「おい、藤木行くぞ!」
「もう覚悟を決めんしゃい。お前さんを連れて行かんと俺達が怒られる」

地獄の放課後が来てしまった。行きたくないと駄々をこねるが仁王も丸井も幸村に怒られるのは怖いのか無理矢理引きずられてった。女子に対する仕打ちじゃねえ。部室に放り込まれると目の前には幸村と…部長さんと椅子に座ったマネージャーさん?がいた。

「あ、やっと来たね遅いじゃないか」
「え…ごめ、ってなんで私が謝らなきゃいけないの!?」
「誰が花壇を荒らしたの?」
「はいっ、すみませんでしたあああ」

幸村には適わない。本能が告げている…!思わず正座になると部長さんに笑われる。

「幸村、この子が言ってた子か?仁王と丸井で3バカトリオって…あ」
「失礼じゃないですか、この人」

しまったという顔をしていたが完璧にもう3バカって言ったよこの人。隣のマネージャーさんも吹き出して笑ってるし。ていうか幸村もどんな伝え方してんだよ。間違ってないでしょ?と言われ仁王と丸井はなって答えたら仁王の方が一応は成績いいでしょ、と言われる。何も言い返せないところが困るなおい!!

「んで、私を呼び出した理由とは…?」
「あぁ、そうそう」

幸村ではなく部長さんが答えてくれるようだ。部長さんとマネージャーさんが少し困った様な顔をして口を開いた。

「ゴールデンウィークの間、マネージャーやってくれない?」
「…は?」







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