02.スイーツスイーツスイーツ



「七海ちゃん、行こー」
「今行くー」

このクラスになって早2週間。主に私がクラスの女子に慣れていなくどぎまぎしていたけど、心優しい皆は普通に喋りかけてくれてなんと!私に!女の子の友達が出来ました!皆とってもいい子!皆曰く「七海ちゃんってもっと怖い人かと思ったー」だそうです。あの2人と対等につるんでるからかな。ていうか皆普通に怖くて最初は話しかけられなかったらしい。人は見かけによらないね!仁王と丸井に言ったら普段の行いが悪いって言われたけど!
次の時間は2クラス合同で家庭科なので家庭科室に向かう私達。丸井と仁王が居ないのは男子は教室で裁縫なので移動するのは女子のみ。出て来る時何で男子は裁縫なんだよ!おかしいだろ!!と散々文句を言われたが私のせいではないので無視。女装でもして紛れ込もうかと丸井は真剣に悩んでいた。あほだ。

「カップケーキだって今日!」
「あんたは彼氏にあげるんでしょー?」
「う、うん…。藤木ちゃんは丸井くん?仁王くん?」
「え…」

1人2つになるような分量で、1つは試食、1つはラッピングできるらしい。皆はもう誰にあげるのか決めているらしく、きゃっきゃはしゃいでいる。そんな中投げかけられた質問に言葉がつまる。どっち?2人にあげたいんだけどなぁ。1つだったら確実に丸井に寄越せと言われるし、そうすると仁王がかわいそうだし…。仁王にあげたらきっと丸井に奪い取られるだろう。どっちにしたって仁王かわいそうだわ。

「2人にあげるか」





「生地をカップに流し込んだグループからオーブンで10分程焼いてくださいねー」

先生の指示通り生地を混ぜ、8個のカップに等分に入れる。天板にカップを並べグループの1人にオーブンまで持っていってもらう。

「洗い物してデコレーションの準備しなきゃね」
「私生クリーム泡立てるよー」
「七海ちゃんありがとう! じゃあ私チョコレート溶かすね」

生クリームをボウルに入れホイッパーで泡立てる。泡立てが終わる頃にはカップケーキも焼き上がり冷ます為にグループの子が網へうつしていた。

「あつっ…!!」

その言葉と共にカップケーキが一つ床に転がってしまった。腕が天板に当たったらしくその拍子にカップケーキを落としてしまったようだ。

「大丈夫!?」
「う、うん…でも…」
「私のカップケーキ…」

班の違う子の物を落としてしまったようだ。ご、ごめん…!と慌てて謝るが当の本人の耳には入っていないようだ。ぼそっと丸井君にあげようとしてたのにーと泣きそうな声で呟いている。試食は必ずしなくてはならないので、必然的にあげる用が試食に回るのであろう。うーん、空気が悪い…。

「あのさ、私誰にもあげなくてもいいからさ、私の分試食にしなよ」
「え、でも七海ちゃん…」
「いーのいーの、可愛い子から貰った方が嬉しいと思うし!」

七海ちゃんありがとおおお、と泣きそうになりながらお礼を言って来る友人。まぁどうせ1個じゃ丸井が文句言うしちょうど良かった。無理矢理半分に割って渡そうと思っていたが、せっかく作ったカップケーキを崩さなくて済みそうだ。先生に事情を話、私の分を落としたという事にしてもらった。まぁ、どうせ丸井や仁王は色んな子から貰ってるから私があげなくても大丈夫だろう。




「お、藤木!! おれのカップケーキは!?」
「俺にはないんかのぉ」
「ねーよ、私が食べた」

はあああ!?とかなりのショックを受けている様な丸井。1個しかないんだからお前等喧嘩するだろと告げるとブンちゃんと一緒にするんじゃなか!と仁王に怒られた。同じ様なもんだろと言うと頭を叩かれた、痛い。


「あ、あの丸井君…!ちょっといいかな…」
「ん?」
「こ、これ丸井君に渡したくて!」
「え、まじ!? いいの!? ありがとう!」

満面の笑みで受け取る丸井。隣のクラスのファンの子かな? 教室の入り口で行われるそんなやり取り。その直後仁王も呼び出されカップケーキを渡されていた。ほらね、私が渡さなくてもいっぱい貰えるじゃんか。


「なんて顔しちょるん?」
「は?」
「すごい顔で丸井の方見とる」

いつの間にかカップケーキを片手にした仁王が戻ってきていて声をかけられる。どんな顔してたんだ私。未だに教室の入り口で喋っている丸井から仁王の方へ視線を向けどういう事?と聞く。

「なんや嫉妬か?」
「…嫉妬?誰が?誰に?」
「藤木が、丸井に?」

ニヒルな笑みで見て来る。私が?丸井に?…嫉妬??

「うわきっっしょ!!きっっしょいわ!!!」
「…七海チャン、もう少し可愛い反応はできんのかのぉ」

呆れ顔で見て来る仁王に渾身のチョップを食らわせた。話し終わったのか戻ってきた丸井にはしつこく何で俺等の分ねーの!と子供のように騒いでいたがうるさいのでしかとしておいた。先ほどカップケーキを落とした子が理由を言おうとこっちに来ようとしたが口に人差し指を当てそれとなく拒否しておいた。なんて優しい私、なーんて。



「んで? 何であんたはそんなに機嫌悪いの?」
「いや…」

放課後、部活の為私は授業で使った家庭科室に来ていた。実は家庭科部なのだ。似合わないって?ほっとけ。家庭科部という名だがほとんど料理しかしていないので調理部のようなものである。ここでは週に2回生徒で話し合って決めた物を作るのだ。その日の部活終わりに次の部活で作るものを決め顧問に提出する、というシステムで今日は前回決まったクッキー作り。スノーボールクッキーとビスコッティ、アイスボックスクッキーの3種類。材料の計量を終え、レシピ通りに生地を捏ねて作っていると同じグループの部長が話しかけてきた。そう、周りから見てもすこぶる機嫌が悪い。
事の発端はあの暴食赤髪と銀髪宇宙人だ。何故か家庭科の授業が終わってから丸井の機嫌が悪かった為、仁王に理由を聞いたのだがそっけなく一言、さあ?とだけ返され理由も分からなく放課後を迎えてしまったのだ。食いしん坊の丸井の事だ、カップケーキを貰える数が1個減ったのが嫌だったのだろう。そう思い私がカップケーキあげなくても他の女の子に貰えるからいいじゃん!と言ったら軽く睨まれた。何故機嫌が悪いのかも分からず丸井はさっさと部活に行ってしまい、仁王も少し会話をしお前さん本当に馬鹿じゃなと言われもう何がなんだか分からなくなった。そしてなんとも言えない気持ちで私も部活に来たのだ。そして先ほどの質問を投げかけられ上手く答えられずに困っている。

「どうせあんたの事だから丸井君や仁王君の事でしょー?」
「うっ……」

分かりやすいなーと笑ってる部長。その笑顔とは対照的に沈んでいる私の気分。そんな気持ちを汲むように外は雨が降り出していた。あーあ、傘ないのにな…。成形した生地をオーブンに入れ外を見つめる。何かしちゃったのかな。こんなに怒っている丸井を見るのは初めてだから不安になる。喧嘩は良くしてたけど、あんなも怒っている丸井を見るのは初めてだ。オーブンタイマーがなる音がし、クッキーを冷ましラッピングする。もやもやしたまま部活終了時刻になり下駄箱へ向かった。
運動部が終わる時間より早いので人が少ない。下駄箱には2つの人影。…何で?

「丸井、仁王…?」
「おう、お疲れ。ほら、丸井」
「…よぉ」

下駄箱に寄りかかるそうに立っていたのはもやもやの原因の丸井と仁王で。何でここに居るんだ?部活は?何で怒ってたの?色々な疑問が頭に浮かんでいたが口は素直に動かない。先に口を開いたのは丸井の方だった。

「…お前どうせ傘持ってないだろ」
「傘…?」
「雨、降ってる」

どうやらテニス部は急な雨の為外での部活は中止。軽く筋トレをして終了になりいつもより早めに終わったらしい。そして私が傘を持っていないと予想し下駄箱で待っていたそうだ。あのなぁと仁王が口を開く。

「ブンちゃんはな、子供なんよ」
「知ってるわ。何を今更」
「おい、シリアスな空気返せよ」

ちょっとブンちゃんうるさい。と仁王にヘッドロックされていた。ざまあ。

「藤木にカップケーキ貰うの楽しみにしてたんじゃと。くれるって思ってたのに食べたって言ってたじゃろ?そこで追い打ちかけるように藤木が他の女の子に貰える的な事を言ったから怒ったんやって」
「…は?」
「だ、だってよ!」


誰よりもお前からもらいたいじゃん!

顔を赤くしてそっぽ向く丸井。何だその理由。本当に子供か。呆れた。呆れすぎて怒る気も失せた。かくいう仁王もお前さんに貰うの楽しみにしてたんやけどなぁと言っていた。お前も子供かよ。そっけなく返事してたのはそのせいか。馬鹿って言ったのは丸井に煽る様な事言ったからか。

「は、ははは…!」
「おめー笑うところかよ!」

そう怒っている丸井に部活で作ったラッピングされたクッキーを放り投げる。もちろん仁王にも投げた。何これ?と言う2人にクッキー、明日あげようとしてたんだけど。と伝えるとパアァと効果音がつきそうなほど笑顔になる。そしてしょうがないのでカップケーキを渡さなかった訳を話すと逆に呆れられた。素直に言えって。しょうがないじゃないか、私にもかっこつけた手前プライドがあるのだ。


「まぁ、私のを期待してたってのは悪い気しないわな…」
「何か言ったか?」
「おいていくぞ、お二人さん」


んーん、何でも!と告げて丸井の傘を奪い走る。


「おまっ、俺の傘!」
「仁王にでも入れてもらいなよー!」
「それは勘弁、男同士で気色悪いからの」
「俺だって願い下げだ!」



教訓!心の友には何でも素直に話す事!







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