06.俺にだって守らなければならない物ぐらいある



天気は快晴。絶好の練習試合日和ですね!!
ゴールデンウィーク3日目。残念ながら夢ではないらしく私は今日も休みなのに学校へ来ている。先ほど他校の生徒も到着し、アップを始めている。その間に私はボールやタオルを準備し、先輩にはスコアボードや今日の組み合わせ表などを準備してもらっている。基本的には先輩達主体でやるらしいが今日は来年の主力、2年生の力も見ておこうという事で数試合組まれている。おかげでドリンクとか用意するのも大変だわ恨むぜコーチ。選手達のアップが終わったのか、ちらほら集まって来る。この日差しの下、各部長の集合!と言う声でそれぞれが集まって行った。






「あ、藤木さんだっけ? ちょっと手首捻ったからテーピングしてくれない?」
「え、あー…」

相手の部員の1人が話しかけて来る。どうやら相手校にはマネージャーがおらず、いつもマネージャー業は1年生がやっているらしい。その子が今審判をしてるのでどうやらこちらに来たらしいが生憎私にはテーピングの知識などない。先輩にやってもらおうと素直にすみません、私テーピング出来ないんです。と言うと、は…?と間抜けな声がした。誰もがテーピングの知識があると思ってもらっちゃ困るよ。座っている先輩の方へ案内し事情を説明してその場を離れる。雑務をこなしていると案外時間が過ぎるのはとても早かった。





「あーーー終わった…」
「お疲れ様、藤木ちゃん」

にこやかにいう先輩。長い1日だった。これの激務を先輩は毎日の様にやっているのか、強い。最後にクールダウンして、この後は相手校の顧問に総評を聞くというミーティングを行うそうだ。ミーティングが終わったらボトルを洗わなきゃいけないので今のうちにボトルを回収しておこうと思い部室に籠を取りに行く事にした。



* * * * * * *


「あっちぃーーー!!」
「溶けそうじゃ…汗が気持ち悪い」
「先輩達試合多くてずるいっス!」

5月というのに何故こんなにも暑いのか。試合をしただけで凄い汗だ。1年のくせに試合あるだけいいじゃろ、と仁王が赤也の頭を叩く。全くだ、なんて贅沢を言ってんだこいつ。そう思いながらガムを膨らます。
この後は軽いミーティングだけなのであと10分ほど時間がある。なので全身汗をかいていて気持ち悪く、仁王と後輩の赤也を連れて裏の水道まで来ていた。頭から水を被りたいが前にやったら幸村君に怒られたので我慢。タオルを濡らし、身体を拭くだけにしておこう。ひんやりとした感触が気持ちいい。赤也と仁王も同じようにタオルを濡らして顔などを拭いている。すると相手校の部員を見つけた。何をしているのかは不思議だったが今日の試合の事や他愛のない会話をしていたので、ただ暑いから涼んでいるのかと思い向こうからも死角のため特には気にしていなかった。汗を拭いたタオルをもう一度すすぎ、そろそろミーティングルームの方へ戻ろうとしたが次の会話で足を止めた。

「でもさ、あの藤木だっけ?何でマネージャーやってんだろうな」
「元からいた子は可愛いし、仕事出来るのにな。あいつ要領悪いし勝手が分かってないじゃん」
「さっきテーピングお願いしたらやり方わかんねーって…使えねー」
「どうせ、顔ファンだろ」
「もしくは身体の関係で、とか?」

かー羨ましいーと下品な声で笑っている相手校の部員2人。聞いてるだけで腹がたって、すぐさま殴ってやろうと拳を握りしめて出て行こうとしたが仁王に止められた。何で止めんだよ!!と思って仁王の方を振り返るがどうやらこいつも切れているらしい。あんまり切れた所を見た事がないので仁王の冷たい瞳にゾクリとした。

「丸井、暴力沙汰はあかんぜよ」
「でも黙ってられねーだろ!!!」
「正々堂々と、勝負すればええやろ?」

と、ニヤリと笑う。せ、先輩…と慌てている赤也。おい誰にも言うんじゃねーぞと釘をさしておく。幸村君とかにバレたら面倒だからな。赤也を先にミーティングルームへと向かわせそいつらに歩み寄る俺と仁王。相手は俺等に気づいていないのか後ろからおい、と声をかける驚いたのか肩を揺らしやべ…と焦った表情になる。

「誰が使えねえって?」
「いや…で、でも本当の事だろ? テーピングも出来ないなんて!」
「お前さんら、こっちの事情も知らずにずけずけと勝手な事を」
「あんな使えない奴置いとく何て関係とか持たなきゃメリットねぇじゃん!」

最後の一言で俺と仁王の怒りは沸点を達したようで同時に口を開く。

「ちょっと面かせや」

膨らましたガムが、パチンと音をたてて割れた。



* * * * * * *


「あれ、丸井と仁王はどこへ行ったんだい?」

ミーティングルームで幸村が発した一言。あれ、確かにあの2人いない。何だよサボリか誘えよ。と思ったがあいつらが幸村を前にしてさぼるとは思えずさぼりではないだろう。後数分で総評が始まるのに。ていうか、切原汗かき過ぎじゃね?大丈夫かと聞くとべ、別に…とそっぽ向かれる。なんだよ。柳が「赤也…何か知っているな?」と言っていたが、相手校の方からもあの2人いなくね?みたいな声が上がっていた。え、まさかあいつら喧嘩してねぇだろうな…?絡まれやすいからな、派手髪だし人相悪いし…。全く他校様に迷惑かけんなよ、と思い幸村に私探してくるわと言い立ち上がる。それと同時に切原が「ぶ、部長…!」と言っていたがとりあえずはあいつ等を探すのが先だと思いミーティングルームを後にする。

ミーティングルームは外からでも入れるが今日は休日なので校舎はしまっているので校舎はありえないだろう。と、すると考えられるのは外。部室とかかな、と思い小走りで目的地へと向かうが向かっている途中でパコーンと、ボールを打つ音がしたのでテニスコートへ向かう。目的の赤髪、銀髪。そして相手校の選手を発見した。


「おい丸井いい!仁王うう!! 何してんだよ!!」
「藤木…」

仁王が驚いてこっちを向く。相手校の選手も何やら不思議な顔でこっちを見ている。何でこいつら試合してんの?そんな試合やり足りなかったの?てか何勝手にコート使ってんだよさっき整備したばっかだぞ馬鹿野郎!!

「お前等ミーティング…」
「うるせぇ!黙って見てろ!」

え。何で私が怒られるの。でもそれ以上口を挟むと余計に怒られそうなので黙っている。それにしても力の差は圧倒的だった。相手校もなかなか強い事で有名なはずなのに。断然丸井と仁王のが強い。テニスが良く分からない私でも言えるぐらいだ。丸井が時間差でボールを打ち相手を翻弄して、仁王が打つショットのスピードには相手も追いつけてない。相手の選手はだんだん苦しそうな表情になっていて。審判などはいなかったが、もう相手校の体力の限界だったのか2人ともその場に崩れ落ちる。その2人に近づく仁王と丸井。2人は悔しそうに睨みつけている。端から見たら暴行現場だぞこれ。柄悪いな。

「おい、さっきの言葉撤回しろぃ」
「っ…」
「悪いが、身体の関係だけの女の為に俺等は必死にはなれないぜよ」
「わ、悪かったよ…」
「まぁ、正々堂々とぶっ飛ばせたし」
「クールダウンにはちょうどいいナリ」
「くそ、しかもパワーアンクルつけたままかよ…!」

「悔しかったら俺のパワーアンクル、外させてみろぃ。ま、お前等には無理だろうけどな」
「相手の本質も見抜けないなんて…詐欺師にはなれんのぉ」


いや誰も詐欺師は目指さねえだろ、とラケットで軽く頭を小突く。2人ともこちらを向くがすぐに石の様に固まる。「ゆ、幸村君達…」「…プリッ」という台詞と私が振り向いたのは同時だった。いつの間にか幸村と真田と柳、困った様な顔をした赤也がいた。相手校の部長達もいるらしい。真田が一歩近づくと次にくるのが何か分かったのか目をぎゅっとつぶる2人。が、いつまでたってもその衝撃は起きなくおそるおそる目を開けると、

「…次は勝手な事したら許さんぞ」
「お咎めなしだってさ、良かったね」
「赤也にも感謝しておくんだな」

先ほどまで試合していた部員は部長にかなり怒られているみたいだし。私だけ話が見えていないらしい。真田は機嫌悪そうで聞けないし、幸村や柳に聞いたら笑って誤摩化されるし、切原に至っては目も合わせてくれないし。仕方なく当の本人の丸井と仁王に聞くがこいつらもはぐらかすし。一体何が起きているんだ。しつこく聞く私に堪え兼ねたのか、だーーー!と丸井が叫ぶ。思いっきり振り返りこちらに人差し指をつきつけ

「お前は気にしなくていーの! とりあえず笑っとけ!」
「そうそう、七海チャンは正々堂々としてればいいナリ」


と訳が分からない事を言われた。
頭にハテナが浮かんだが2人が満足そうな顔をしていたので私は何も言わず柳が持ってきてくれたタオルを2人の後頭部に投げつけておいた。







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