05.まだまだ青いねぇ、君も、僕も



部員達の練習は無事に終わった。現在夕方の5時。選手が終わってもマネージャーの仕事は終わらないらしい。コート整備、部誌の記入、明日のドリンク作り…。遊びでは無我夢中で動けるが慣れない仕事となるとさすがに疲れがたまるようだ。部誌の記入はもちろん分かる訳がないので先輩に任せ、1年生に教えてもらいながらコート整備をしている所だ。君達も疲れているだろうに…申し訳ないね。案の定丸井や仁王、もちろん幸村などは私を無視しさっさと着替えに行った。巻き込んだんだから手伝ってくれてもいいじゃないか全く。手伝ってくれた後輩くん達にお礼を言い気をつけて帰るように言う。さて私は明日のドリンク作りか…。練習試合に相手は立海に来てもらう事になっているので、いつもより多めに作るそうだ。練習中にボトルは洗って予備も出したので後は粉と水を入れて冷蔵庫に入れるだけだ。

「藤木」
「んー? 何だ柳か」
「悪かったな、俺で。よければ手伝おう」

おっと、珍しい。ボール運びとかはジャッカルや柳生が手伝ってくれたが、他の部員は全く手伝ってくれなかったので薄情者と思っていた所だったのに。こりゃ明日は雨かねぇと呟くと明日は降水確率0%のはずだが?と返された。違う、そうじゃない。そういう意味ではないのだよ。無言で柳の顔を見つめると…冗談だ。と返された。表情が変わらないから本気なのか冗談なのか分からないところが困る。
疑問に思っていたのだ。柳が何故さっさと私に声をかけなかったか。丸井と仁王とは中等部からの付き合いだったのでもちろん同学年のテニス部とはほとんど面識がある。仲いいのももちろん知っている。そして柳の事だ。私の部活などももちろん把握しているだろう。手元の粉から目を離さずに柳に話しかける。

「柳、あんたの事だから最初から目つけてたでしょ」
「良く分かったな。だがお前の事だ、普通に言ったって逃げるだろう。なのであの事件を利用させてもらった」
「…私がゴールデンウィークに予定があるって思わなかったの?」
「安心しろ、プライベートの予定がある確率は0%だったからな」
「失礼だなおい!!!」




柳に手伝ってもらったので思ってたより早く終わった。先輩マネージャーさんには部誌を書き終えた時点でさっさと帰ってもらった。けが人は無理しちゃいけないしね。部室の鍵うんぬんは分からないので、そこは柳に任せる事にして部室を閉めてもらう。他の部員は既に帰っているらしく、誰も居ないテニスコートに夕日が落ちる。何気なくおもった事を口にしてみる。

「…案外さぁ、真面目にやってるんだね」
「…それは丸井と仁王の話か?」

さすが柳、お見通しだね。実は中等部からの付き合いだが、部活をやっているのを見に行った事はない。周りのファンがうるさいし。熱狂的なファンは、休日の練習も見に来てるらしいよ!暇だね!それにファンの子から反感買ったら嫌だし。今回のは不可抗力だからしょうがないよね、うん!そんな感じで部活を見に行った事はなかった。なので今回初めて部活姿を見たのだ。あまり興味ない私でも知っているのは、立海大のテニス部は強いって事。中等部の時は全国二連覇してたし、関東大会はほぼ負けなし。そしてそんな強いテニス部であいつらはレギュラーを掴み取っていたという事。なので一応真面目にはやってると思ったが普段が普段なのでこんな真剣だとはにわかに信じがたい。だけどこの目にははっきりあいつらが努力しているのがうつっていたのだ。

「お前も同じだろう?」
「え?」
「無理矢理マネージャーを頼んだが、きちんとやり遂げようと努力しているじゃないか。種類は違えど姿勢は一緒だ。あいつらと何も変わりはないはずだが?」
「……」

何なんだこの男。性格に似合わずちょっとおセンチになってた事でも見抜いてたのか。そう、少し仁王と丸井の姿を見て私にはこんなに夢中に、努力出来るものがないな、なんて考えていて心にモヤがかかった様な気分だったのだ。なんとも言えない気持ちになり、しょうがないので柳の肩をグーで殴っておいた。それに動じず、フッと笑って明日は晴れるな、なんて。

「快晴だよバカヤロー…」


柳には勝てそうにありません。





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