07.過ぎ行く時間は哀色で



疲れた、この一言に尽きる。練習試合は昨日。丸井と仁王が試合をした後相手の部長と試合をしていた2人に謝られた。訳が分からなかったがとりあえず笑っておいたら仁王と丸井は満足そうな顔をしていた。そして今日は普通の練習。昼食を食べ終わり数時間がたった今、部活の後片付けをしている所だ。慣れない事をするととても疲れる。でもやっとこのマネージャー業から解放される!!明日は部活が休みらしいので、ゆっくり休む事にしよう。

「藤木ちゃん、終わった?」
「先輩。後用具返すだけですよー」
「ありがとうね、本当に助かっちゃった」

少し眉を下げて笑う先輩。あぁ、私の癒しは先輩とジャッカルだけだったよ本当に。幸村には笑顔で威圧されて柳にはデータ取るとか言ってストーカー行為を、丸井と仁王にはちょっかいかけられそれを真田に怒鳴られたり、柳生は紳士とか言われてるのに助けてくれなかったし。ロクな奴いねぇなここ!!! そんな事考えていて苦い顔していたのか先輩に心配された。疲れていたのはあいつらのせいだな、慣れない事のせいじゃない。用具を片付けて戻るとふと後ろから名前を呼ばれた。いつの間にか柳が後ろに。あれ、まだ帰ってなかったの?

「藤木、お前課題を持っているな?」
「…え、何で知ってるの」
「大方部活終わりにファミレス等で終わらせて明日ゴロゴロしようとでも思っていたのだろう」
「解説ありがとう、そして予定ない事公表するのやめてもらっていいかな?」

フッと馬鹿にしたような笑みを浮かべる柳。どうせ予定なんかないわ。課題を持っているからってなんなんだ。

「後2週間後だぞ。勉強しなくてどうする」
「は? 何が2週間後?」
「中間テストだ」


その言葉を聞いてサアァと血の気が引いた。
忘れてた!!中間テスト!!
5月半ばぐらいにある中間テスト。そんなものすっかり忘れていた。私は頭の出来はよくないのでしっかりと勉強して頭に叩き込まないと全く点数が取れないのだ。勉強は嫌いだがやらないと赤点を取りそうなので仕方なくやる。要領悪いからいくら勉強しても高得点取れないけどね!
話を聞くとテニス部は頻繁に勉強会的な物をやっていて、毎年ゴールデンウィークの最終日とその前日の午後はオフなのでこの半日の時間を使っているらしい。仲良しだな。まぁ、柳とか真田、幸村、柳生の秀才組がいるもんな。勉強を教えてもらうには絶好の機会だ。柳がもう皆先にファミレスにいるぞ。早く着替えてこいと私を部室に押しやる。え、この大人数でおしかけるの?絶対迷惑じゃね?







「赤也!! ここは先ほどやっただろう! また間違えているぞ!」
「何でこれぐらいも分からないの?中等部の時習ったでしょ?」
「えぇ!?でもさっき仁王先輩に教えてもらって…」
「どうせまた仁王君の嘘でしょう」
「プリッ」
「ちなみに中等部の時、お前は同じ様に騙されていたぞ」
「本当に学習しねーなぁ」
「そう言ってるブン太も、ここ答え違うぞ」
「お前等ほんとに騒がしいな」

期待を全く裏切らないな。切原にばっか構いすぎだろ。立海からほど良い距離にあるファミレス。ゴールデンウィークで時間帯も時間帯なのであまり混んでいないようだ。まぁ、元からここは駅からも少し距離があるのであまり混んではいないけど。9人はさすがに1テーブルでは座れないので5人と4人に別れて座り、とりあえず全員分ドリンクバーを注文した。もちろん4人の方には切原の横に柳、その対面に真田と幸村。なんて地獄なんだこの組み合わせ。
こちらには柳生と、得意科目は出来る仁王が居るので大丈夫であろう。ジャッカルって勉強出来るの?と聞いたら英語は得意だなと言われた。さすが!え、ていうかジャッカルって何人とのハーフ?

「俺はブラジル人とのハーフだな」
「だからコーヒーも好きなの? 母国が恋しくて見た目も似せちゃったの?」
「…あのなぁ」
「もしかして、ジャッカルに子供出来たらハーフ&ハーフ…!?」
「丸井、真顔で凄い事思いついたみたいな感じになってるけどそれクォーターな」

私の発言にえ、そうなの?と言う顔で見てくる。それ他の人の前で言うなよ、馬鹿と思われるから。と言ったら仁王がもう言わんくても手遅れじゃと思うけどなぁ、と課題のテキストを見つめながら言う。うるせーよ、と拗ねる。

「まあまあ、いいじゃないですか。これで次から間違えずに済むんですから」
「柳生の言う通りだぜ! しっかし日本語は難しいな」
「分かるっス!俺最近まで『波浪注意報』の事『ハロー注意報』だと思ってましたもん!めっちゃ挨拶してくる!」

いきなり私達の背中側から声がかかる。こちらの話が気になったのか切原が後ろを向き話しかけてくる。まぁ、小さい頃はあるよね、房総半島の事暴走半島とかね。ん?最近って言った?

「おー俺も最近まで『台風一過』の事『台風一家』だと思ってたぜ。騒がしい家族だよなーって」
「本っ気で丸井と成績同じぐらいなの恥ずかしくなってきたんだけど」

高校生にもなってそれはねえだろ。柳に至っては哀れみの目で2人を見つめている。しかも開眼。案の定切原は真田に集中せんか!と怒られていた。とりあえず全員集中してくれ。




ファミレスに来て数時間。課題も無事終わり、テストに向けての勉強も少しは出来た。途中切原が丸井のドリンクを学生が良くやる色んな種類を混ぜちゃおうぜ的な事をやって真田に怒鳴られたりとか、その怒鳴り声がうるさくて店員さんに注意されてハプニングもあったがなんとかやりきった。よくぞこのメンバーでやりきれた! 課題が進んだのは大半柳生と柳のおかげだけどね。幸村と真田には怖いので聞けません。こんなのも分からないのかと言われるのは目に見えているからね。終わった課題を鞄に閉まっていると丸井がメニューのデザートのページを見出した。

「なーんか腹減ったぜ。藤木、何か食わねえ?」
「えー、今お金ないもん」
「大丈夫大丈夫!」

でも、確かにお腹がすいたなーちょうどおやつの時間だしなーなんて思い丸井が見てるメニューを何が大丈夫なのよと聞きながら覗き込む。ジャッカルの顔が引きつってるのは気のせいだろうか。

「奢ってやるって!…ジャッカルが!」
「やっぱ俺かよ!」
「やったー! 私イチゴパフェ!」
「俺はチョコレートパフェデラックス2個!」
「んじゃ俺はチーズケーキにしようかの」
「私はあんみつがいいですね」
「仁王と柳生まで!?」

ジャッカルに食べ物を奢らそうとしているこの紳士は果たして本物でしょうか。
それでもしっかりと食しました。ジャッカルどんまい!ごちそうさま!





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