■十月二十二日


平日の放課後、沢田から逃げ回っていたおかげでデスクワークがたまり、土曜日に応接室で仕事をする羽目になってしまった。
なんとも情けない気持ちで机に向かっていると、控えめなノックの音が聞こえ、はっとする。
扉を叩くこの音を、僕はよく知っていた。

返事も出来ずにいると、そっと扉が開いた。
案の定、姿を見せたのは沢田だった。
「すみません・・・土曜日なのに、押しかけて・・・」
上目遣いにこちらを見ながら謝る沢田に、僕はただ黙って目を伏せている事しか出来なかった。彼は僅かに眉を寄せた。
「でも、ちゃんと話をしたかったから・・・」
正面から僕を見つめるその真っ直ぐな視線に居心地の悪さを感じ、立ち上がって窓に寄り添い腕を組んだ。
彼に背を向ける姿勢で。
沢田は暫く黙っていたが、急にかつかつと音を立ててこちらに近付き、僕の肩を掴んで自分の方に向かせた。
突然合ってしまった視線に驚き、目を逸らすことが出来なくなる。
離すまいと見つめるその大きなはしばみ色に、僕は吸い込まれていくような錯覚に陥っていた。

「俺が何か気に障るようなことしたんならっ、ちゃんと言ってくださいっ・・・じゃなきゃ俺、莫迦だからわかんない・・・」


潤んだ大きな瞳が、僕を見つめる。


「莫迦だから・・・大人のヒバリさんに言われたこと鵜呑みにして、もしかしたら俺なんかでも、がんばれば・・・なんて思っちゃって・・・」


肩を掴む手のひらから、ぬくもりが伝わる。


「そういうの、ウザいのかも知れないけど、しゃうがないじゃないですか・・・だって俺、」


顔に触れそうな程近い髪から、甘い匂いが漂う。


「俺、ヒバリさんのことっ」


すとん、と、音を立てて、意識が落ちた。




・・・しゃくりあげるような声に、ふと我に返った。

見慣れた応接室の床に膝をついて座る僕の目の前には、愛しい子が仰向けに倒れ両手で顔を隠している。
数箇所ボタンの取れたシャツの前は開かれ上半身を露わにしており、ズボンは下着と共に下ろされ、膝の辺りで引っ掛かっている状態だった。
始めて見る筈の沢田のものに既視感を感じていた僕の口の中には、
独特な苦味が広がっていた。

眼下で泣きじゃくる沢田の姿を、僕はただぼんやりと眺めていた。





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