■十月六日


時間が過ぎても沢田が姿を見せなかったので二年の教室に迎えに行ったが、そこはカラだった。
彼の机の上には鞄が載っていたので帰ってしまった訳ではなさそうだ。
念のため校舎内を廻ると、数人の生徒が体育祭準備に走り回っているのを見かけた。恐らく体育祭委員であろう。彼らはここ一週間ばかり、放課後に集まって準備をしていた。
二年、一年教室と見て廻り体育館横にある倉庫の前を通ると、そこでは体育祭委員達が騒いでいた。
「何してるの君たち、うるさいよ。もう少し静かに・・・」
「あ」
騒ぎの中心でバスケットボールを持って突っ立っていたのは沢田だった。
何故こんな所に彼がいるのかと眉を顰めると、周りの生徒たちが青い顔で沢田の手の中のボールを奪い取った。
「沢田、ほらもう時間なんだろ?こっちは片付けておくから行って来いよ!」
明るい声で呼びかけながらも、怯えたようにちらちらとこちらを盗み見ている。
でも、と言い返そうとする沢田は大勢の手によって無理やり外に出されてしまった。僕は困ったように眉を寄せている彼の手を取り、応接室へと向かった。
「あんな所で何してたの?」と問えば、「体育祭に必要な備品を取り出そうとしたら棚の物が全部落ちちゃって、それを拾ってたらボールの籠にぶつかって倒しちゃったんです。なんか皆に後始末頼むことになっちゃって、悪い事しちゃった・・・」と肩を落とす。
「何で君が、準備を手伝ってるの?」
その質問に沢田は一瞬きょとんとした顔をした。
「だって、俺体育祭委員だから」
「・・・え?」
今度は僕がきょとんとする番だった。
そういえば怪我をした委員の代わりが一人入ったと言うのを聞いた気がする。
確かにここ最近見かける度に忙しそうにしていた・・・気がする。(彼の場合、行動が遅いのかいつ見ても慌てているので分かりにくいが)
「体育祭委員って、放課後集まってたんじゃなかったっけ」
「あ、はい。でも委員会の先生に、俺は応接室に行っていいって言われてるんです」
・・・まあ、僕の邪魔をするような教師はここにはいないだろうけど・・・。
それにしても、熱血ぞろいの体育祭委員(ほぼ立候補)の中で、この小さいのはさぞかし浮いているのだろう。
じっと見つめると僕の考えに気付いたのか、沢田がぷうっと頬を膨らませた。
「しょうがないじゃないですか。俺のクラス、もうやりたい人いなかったんですから」
要は押し付けられた、と。・・ま、らしいけど。

しかしそれだけ僕の考えが読めるのなら、少しは他の部分にも気付いて欲しいものだ。






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