■十月五日


応接室に入ってくるなりこちらが呆れてしまう程、沢田のネクタイは物凄いことになっていた。あれでは蝶々結びと言ったほうが早いだろう。
僕の視線に気付いたのかそれとも元々気になっていたのか(後者であって欲しい)、彼はすぐに紅くなって口を尖らせ、
「七時間目体育でっ!そ、それに体育祭の準備やら何やらで忙しくって!」
と言い訳を始めた。
その様子が余計におかしくて思わず吹き出すと、沢田は言い訳を止め、更にむうっと頬を膨らませた。
僕はくすくす笑いを止めずに座ったまま椅子を後ろに少し下げ、膝を叩いた。
「おいで」
沢田は一瞬きょとんとしたが、大人しく僕のすぐ横まで近づいて来た。
「違う・・・ここ」
その腕を掴んでぐいっと引っぱると開いた自分の膝の間に同じ向きで沢田を座らせた。
そして彼の腹部に手を置き引き寄せ、後ろ側から回した手でネクタイを外し始めた。
「ヒ、ヒバリさん!?」
「よく見ておきなよ」
上ずった声を出す沢田にぴったりとくっついて、ゆっくりとネクタイを締めてやる。
唇が触れそうな程近づいた耳元からは、甘いいい匂いがした。
「・・・ここを引っ張って完了。コツさえ掴めば簡単だから。やってごらん?」
と沢田を促したが、彼は身体を強張らせたまま動く気配を見せない。不審に思って顔を覗き込むと、彼は真っ赤になっていた。
何かしただろうかと思い改めて自分たちの体勢を見直し・・・はっとして慌てて彼の身体を剥がした。
沢田は頬を紅く染めたまま、所在無げに視線を泳がせている。
「いや、違う・・・ネクタイの結び方を教えようとしただけで、今日は他意はないから・・・」
顔が熱くなっていく。
と言うか、散々ディープキスだの何だのをしている筈なのに、何で今更こんなに照れなくてはいけないのだ。

恐らく僕の顔も相当紅くなっているのだろうが、首がもげそうなほどこくこくと何度も大きく頷く沢田には気付かれはしなかっただろう・・・。




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