■十月十四日


「ヒバリさん、家でパーティーがあるんで、今日は俺このまま帰ってもいいですか?」

終業のチャイムの後いつも通り応接室にやって来た沢田は、部屋に入るなり僕にそう告げた。
パーティー・・・昨日赤ん坊が言っていた奴か。
「パーティーって、なんの」
「誕生日パーティーなんです。皆集まってくれるらしくて」
「誰の誕生日?」
何の気なしに尋ねた質問に、沢田が息を止めたのが分かって顔を上げた。
「リボーンと・・・俺の・・・」
「・・・君の誕生日、いつ?」
「・・・今日」
「何それ」
誕生日なんて聞いていない。しかも今僕が質問しなかったなら、彼は僕に伝えなかったのではないだろうか。
「僕何も聞いてない。毎日顔を合わせているんだから、それくらい知らせてくれたっていいんじゃないの?」
「だって・・・ヒバリさん、群れるの嫌いだろうし・・・」
「パーティーに呼べって言ってるんじゃないよ。あの群れとは別で、僕だっておめでとう位言いたい」
「そんな・・・たいした事じゃないし・・・」
「僕にとっては大事なことだ」
俯いていた沢田の肩がぴくっと揺れる。かと思うと、突然彼が顔を上げた。その顔は今まで見たことのない、怒りの表情を滲ませていた。
「ヒバリさんは、好きな人の事だけ考えててあげればいいんですっ!!」
そう叫んだかと思うと、沢田は応接室を飛び出して行った。
残された僕はただ呆然と、すでに姿を消してしまった扉の向こうを見ていた。

その後ずっと落ち着かない気分でいた僕は、デスクワークをそこそこに、沢田家周辺をうろうろと見回りに出ていた。午後から振り出した雨は強くなって来ていたが、僕は傘を手にただ明るい光を漏らす窓を見つめていた。
そこはいつもに増して賑やかで、笑い声、叫び声、爆発音が入り混じっていた。
その喧騒が収まり、見知った顔が次々と家から出てきたのは九時を過ぎた頃だった。
先程までとは打って変わって静まり返った家の外から、彼の部屋の明かりが消えたのを確認すると、僕は二階の窓から侵入した。
「沢田」
小さく声をかけると、ベットの中からごそごそと音が聞こえ、彼が身を起こしてこちらを見た。
僕は近づいてベッドの端に腰を下ろし、右手で彼の頬を優しく撫でた。彼は大人しく受け入れていた。
「・・・御免なさい。俺、あんな事言うつもりじゃなかったのに」
僕は黙って頬を撫で続けた。
静かな部屋の中で互いの呼吸の音だけが聞こえていた。
「沢田」
淡い月明かりの下、彼は僕を見つめた。
「君に、話したいことがあるんだ」

伝えたい。

その気持ちは僕の中の容量を超え、とろとろと流れ出している。
「僕の好きな人って、本当は・・・」

「ガハハハハ〜!!ランボさん、とうとう世界を征服したんだもんね〜!!」

突然大きな音を立ててドアを蹴破り入って来た餓鬼は、唖然としている僕に土管のような物を向けた。
周囲が見えなくなる程の煙が晴れて見えてきたものは、

・・・戦場、だった。

そこが並盛神社だと気付いた時には大勢の敵が一斉に僕に襲い掛かって来ていた。
あの絶妙なタイミングで入って来た子供。そうか。
これが、十年バズーカとかいうやつか。
訳も分からないままトンファーを振るう。
今まで相手にして来た群れの数々とは比べ物にならない手ごたえではあったが、いくら戦闘好きの僕であっても時と場合と言うものがある。

大事なところだったのに!!

暫く得物を振るい続けていると、また白い煙が上がり、いつの間にか沢田の部屋に戻って来ていた。
「沢田」
続きを、と彼の肩を掴み至近距離に顔を近づけてはっとした。
彼は真っ赤な顔で、瞳まで潤ませていた。
「・・・もしかして、十年後の僕に何かされた・・・?」
「ちっ、違います!」
紅い顔で必死に首を振る沢田は、明らかに何かを隠していた。
・・・そう、僕ならきっと、こんなおいしいシュチュエーションを逃したりはしない。
腹の底からふつふつとどす黒い怒りが湧いてきて、静かにトンファーを取り出し彼の顔の前に突き出した。
「言え」
低く囁く僕を見て、すでに彼の顔色は赤から青へと変わっていた。
それでも首を振り黙秘を続ける。

結局、その後いくら脅しても凄んでも、沢田は口を割ろうとはしなかった。



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