■十月十二日


「ヒバリさんって、山本と仲いいんですか・・・?」
「・・・は?」
今朝から沢田の表情が曇っていた事には気付いていた。
最近の彼は浮き沈みが激しい。以前のような屈託のない笑顔を見ることが少なくなっていたので、心配はしていたのだが。
しかし、今の質問は一体どう捕らえたらいいのだ。
まさか、「ヒバリさんの好きな人って、もしかして山本・・・」などと続きはしないだろう・・・いやそれ、勘違いも甚だしいから!誤解の許容範囲超えてるから!
落ち着きを取り戻そうと深呼吸をしていると、暗い表情のままの沢田はポツリと呟いた。
「山本、ヒバリさんの好きな人のこと、知ってた・・・」
「・・・ああ」
何だ、そのことか。
僕が安堵の溜息をつくと、沢田は顔を上げて僕の顔をじっと見た。
「はぐらかしてたけど、誰か、も知ってたみたいで・・・」
そんなことなら並盛の全校生徒が知っている、とは彼が受けるショックの大きさを考えると決して言えはしない。
とはいえ・・・あの野球少年、何も考えてなさそうな間抜け面をしているが、沢田には話さなかったのか・・・。

真っ直ぐ僕を見つめる沢田の瞳が揺れていた。彼の気持ちもこんな風に揺れているのかも知れない。

・・・知ってしまったら、離れていってしまうのだろうか。

「・・・知りたい?」
思わず口をついて出た言葉。それは、僕の願望だった。
突然、ダムが決壊した様に気持ちがどんどん溢れ出して来る。
「知って欲しい」と言う気持ちが・・・。

僕らの視線は絡み合ったままお互いを探り合っていたが、やがて彼の瞳は逸らされ、また足元へ向いてしまった。
「知りたくない」
聞こえるか聞こえないかの、小さな呟き。
「知りたくない」
俯いて首を振りながら、沢田は同じ言葉を繰り返した。今度はきっぱりとした口調だった。
知りたくないのなら、そんな話を持ち出さなければいいのに。
まだ小さく首を振り続けている沢田に、軽く怒りを感じる。

どうしてくれるんだ。

彼の拒絶の言葉を前にしても、気持ちは溢れ出すばかりだ。
今なら、笹川の妹の気持ちが分かる。
「知っていてもらえるだけでいいんです」

膨らんでしまった気持ちは萎む事も出来ずに、ただ辺りをふらふらと彷徨っているだけだった。





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