■九月二十八日


昼休み、偶然を装って沢田に声をかけ、職員室に用事があるからと言って二年教室まで肩を並べて歩いた。
廊下で群れていた生徒達は、僕らの姿に気付くとさっと道をあける。
その様子は先週までと同じであってまるで違う。
今まで僕を恐れて道をあけていた彼らは、ある者は(主に女子)羨望の眼差しを向け、ある者は(主に男子)がっくりとうな垂れる。
そんな彼らの態度に、沢田は落ち着かない様子であったが、僕は非常に気分がよかった。
肩でも抱いて歩きたかったが、何も気づいていない沢田の手前、それが出来なかったのは本当に残念だ。
2−Aの教室に入ると、やはりここでもざわめきが起こる。
僕はそんな彼らを横目に、扉の前で額が触れそうなくらいに沢田に顔を寄せ、
「また放課後、応接室でね」
と、皆に聞こえるような声で言った。
わけも分からず紅くなる沢田の頬を一撫ですると、じゃあねと声をかけてその場を離れた。

十歩ほど歩いたところで、2−Aの教室から女子の甲高い叫び声が聞こえて来た。


放課後いつも通り応接室での時間を過ごし、自分の仕事も片が付いたので沢田と共に学校を出ることにした。
昇降口で外履きに履き替えるため一旦別れると、沢田は二年の下駄箱の方に向かった。
僕も教師側の場所に向かい自分の下駄箱を空ける。と。
ばさばさっと、手紙の束が落ちてきた。
五、六通あったそれを拾い中身を確認すれば、
「沢田綱吉に手を出すな」
「沢田と別れろ」
などとつまらない言葉が書かれていた。
無論、全て無記名だ。
まあこれで自分の名前を書いてくるのであれば、当然死を覚悟しての事であろうが、結局そこまで勇気のある者はいないのだ。
所詮負け犬の遠吠え・・・とそれらを五センチ角に破り、その場に落とした。
「ヒバリさん・・・それ・・・」
後ろから、すでに靴を履き替えてきた沢田の声が聞こえた。ひらひらと舞い落ちる手紙の残骸をじっと見つめている。
「つまらないものだ」
冷淡に呟き、靴を履き替える。一緒に帰ろうと沢田を振り返ると、彼はまだ僕の足元に散らばる紙くずを見つめていた。
「書いた人の、気持ちは・・・?」
ぼそりと小さく聞こえた言葉に、思わず眉をひそめる。
こんな物を無記名で送って来る奴らの気持ちなど、考えたくない・・・いや、考えさせたくない。
「関係ない」
そう言い放ち、学ランを翻して校舎を後にした。

沢田はそれでも、紙くずを見つめたままだった。





prev next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -