■九月二十七日


校庭で臨時の朝会が開かれている間、放送で沢田を呼び出し、書類を運ぶ手伝いをさせた。
「・・・ヒバリさん、何で手ぶらなんですか」
書類の山を抱え、落とさぬように必死な顔で歩く沢田は、口を尖らせ不服そうな様子で言った。視線は手元だけに集中している。不器用な彼は、他に目を向ける余裕が無いのだ。
「うん、僕まで荷物持ってると、色々とやりにくいからね」
にっこり笑って答えると一瞬不思議そうな顔はしたが、顔を上げたりはしなかった。
必死な様子が可愛くて「がんばって」と声をかけつつ頭を撫でると、「動かさないで下さい!」と叱られた。

二階の特別教室の並ぶ廊下を過ぎ右へ曲がると、右手が二年教室、左手が校庭側の窓に接している廊下に出た。
横目で窓の外を見やると、整列する全校生徒と、台の上に乗って話をする草壁のリーゼントがよく見える。
草壁は僕たちが現れた事に気付いた様だった。マイクに向かって何かを言いこちらの方を向くと、全校生徒も一斉に顔を向けた。
「沢田」
彼らを視線の端で確認しながら書類に集中する彼の名を呼び、優しく、しかし有無を言わさずその背を窓際に押し付けた。
沢田は少し驚いたようにようやく顔を上げた。僕は彼の視線が逸れない様に、流れる様な動作で唇を合わせる。
窓ガラス越しに、生徒達のざわめきが伝わって来る。
僕はただ、それを沢田に気付かせない様に彼の唇を貪るだけ。
そうすれば、草壁が台の上からあの威厳のある声で全校生徒に警告をする筈だ。

「沢田綱吉は風紀委員長のモノなので、邪な考えを持つ事の無い様に」


放課後応接室にやって来た沢田は、訳が判らないといった様子でしきりに首を傾げていた。
「なんか今日、皆変なんですよ・・・。男子は皆やたら暗いし、獄寺くんは朝からずっと泣いてるし、山本には「やっぱツナってすげーよな」って言われるし、女の子たちにはきらきらした目で見られるし、京子ちゃんなんて俺の手握って「がんばってね!」って言うし・・・」

眉を寄せながら変なの、と呟く沢田に、僕は一言「そう」と相槌を打って微笑んだ。





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