禁断の果実


「兄さん、やめて!!」

 薄暗い部屋の壁に妹を押しつける。片手で髪を引っ張り上げて顔を上げさせると憎たらしい金色の瞳には恐怖と怒りが滲んでいる。兄の中に痺れるように感情が駆けていき、強い酒を一気に飲み干した後のように身体が僅かに震えた。自分のせいで妹にこんな顔をさせていると思えばひどく気分が良かったのだ。

「男を取っ替え引っ替えらしいな」
「兄さんには関係ないでしょ…!」

 眉間に深く皺を刻み睨みつけた妹の頬に兄の拳が飛ぶと妹は途端に大人しくなった。何本が歯が地面に落ちて、真っ赤な血が顎を伝っていく。つい勢いに任せて殴ってしまった事を兄は悔いたが、こらから行われる事を悔いることはない。

「やめて!!兄さん!お願い!許して!!」

 力で妹をねじ伏せた時、自分に何が起ころうとしているのか察したのか絶望に濡れた目を向けて訴える。それでも止めなかった。その視線も、叫びも兄を加速させる。

 妹を犯したのは惚け者に痛みを与えるためだった。妹は殺しの筋はよかったが頭が弱かったのだ。または別の感情もあったのかもしれない。妹に無理やり押し入った時、兄の中で痛みを与えるはずの行為は快楽を生んだ。毒にも拷問にも慣れ切っていた妹が痛みと苦しみで悶え叫ぶ姿は新鮮かつ鮮烈な光景だったのだ。情欲を掻き立て思いのまま兄は妹を犯した。それは一度や二度ではなかったが、暫くして妹は逃げるように男と駆け落ちした。

 しかし何年か後に戻ってきたのだ。兄であるシルバの元へ小さな子供を連れて。あの男によく似た髪の色をしていたが、娘の中の夜叉が垣間見えた時それは銀色に見えた。そこで確信した。自分の子だと。妹は何らかの方法で娘の髪を変えたのだ。自分の子供だと悟られぬように。それはあの男も知らぬ事実であったかもしれない。しかしシルバにとっては男に報復するのにぴったりだった。

「あの子は私の娘だ」
「本当にそうか?屈辱を受けた自分をお前に知られたくなかった妹は嘘をついた。わかっているはずだ。ナマエはここにいるべきだと」
「それでもあの子は、私の子だ。お前のものではない」

 最後まで哀れな男であった。病んだ妹を手にかけたのも、病に見せかけて男を殺したのも、全ては娘のためだった。凄まじい強さと、才能を備えた娘のためだった。それ以外は皆殺してしまった。もはやその事実を知るものなどいない。

 ゾルディック家で赤毛の娘はイルミやキルア達と同じように愛情を与えられていた。周りからはそれが過剰だと感じられる事もあった。キキョウもそうだったが、シルバの娘への執着心は実子よりも強かった。死んだ妹の娘、姪にそこまでの感情を向けるだろうか。執事の中には本当はシルバの娘なのではないかと思う者もいたが、決して口に出すことはない。シルバを疑ってはならないからだ。もし本当にシルバの血が流れているのだとしても事を荒立てる者など一人もいない。本人でさえもその事実に興味などなかった。またはただの思い過ごしかもしれないと。

  26年ほど前に兄が妹を犯した事実などもはや誰も関心を抱かない。淡く切ない感情に気付いてしまった長男を除いて。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -