裸足のままでいたいのに




「虎杖悠仁を殺せ」
「…へえ、私みたいに飼い慣らさないんですか?」

 「いい戦力になりますよ」と口角を上げて言って見せれば不服そうに喉を鳴らす声が暗闇から聞こえた。怖いのだろう、宿儺の器の測りきれぬ力が。ここのお偉い方々は揃って臆病だ。私だっていつ死刑判決を下されてもおかしくはないのだ、補助監督として大人しくしくしているのも僅かだろうと高を括っているはずだ。

「遠慮します」
「断る権利があると思うのか」
「…権利?笑わせる」

 鼻で笑って背を向け、踏みとどまってた足を突き動かした。「今までちゃんといい子でいたんだから、これくらいの反抗許してくださいね」最後にそう言い放ってこの暗闇から姿を消した。

「………あれのどこが飼い慣らされているんだ」

 暗闇の中で響いた野太い声が空虚に溶けていった。

***

 ゆっくりと煙を吐き出して吸い殻を携帯用灰皿に押し付ける。瞼が石のように渇いている。とんでもなく眠い。次の任務のために高専に訪れていたが喫煙所まで行くのも面倒で誰もいなそうな校舎の裏にいた。

「よう。元気?」
「え、なんすかその言い方カッケェ。てかなんで気づいたの?」
「なんとなくだよ」

 息を殺し忍足で後ろから迫ってきていたようだが残念、私は気配には敏感だった。虎杖くんが私の隣に腰を下ろすことは珍しい、確か彼は私を恐れていたはずだ。

「ナマエさんっていくつなの?」
「22だよ」
「えっ、うそ。もっといってるかと思ってた」
「そう、殴っていいのね?」
「違う違う!あの五条先生を遇らってるからもう少し上なのかと思って…見た目とかは関係なしに!」

 遇らっているつもりないが、面倒くさい男慣れしているのだ。あの兄プラス変態の知り合いと接する機会が多かったのだからそうもなる。しかし五条悟という男は別枠で面倒な男だ。

「俺さ、今までナマエさんのことちょっと怖かったんだよね。でも全然そんなことないや。伏黒が言う通り優しいね」
「優しい…?」
「優しいよ、視線とか、いつも俺らのこと見守ってくれてるでしょ?バカやらかしそうになったら止めてくれるし、怒ってくれる」

 それはあの五条さんから生徒をよろしく頼むと言われているからだったが、適当なあの人と比べたら優しいと思われるのもわかる気がする。「あの子達はまだ子供なんですから」と七海さんに言われてから、ああ、そうだなと思うようになってきた。私がいた世界ではあまり子供とか大人とか関係なかった気がする。

「弟が……たくさんいたからね」

 優しいのは君の方だ。虎杖くんが私を怖いと思うのは勘が良いからだ。間違っていない、その感覚をこれからもっと育てていかなければならない。間違っても私みたいな奴にそんな無防備に笑いかけてはいけないんだよ。

「兄弟たくさんいたんだ!羨ましい、俺一人っ子だからさあ」
「まあ、みんな癖強すぎて怖いんだけどね。喧嘩は命がけだし」
「それヤバくない?どういう家族?」

 ゲラゲラと口を大きく開けて笑う彼に重たかった胸の奥が軽くなったような気がする。確かキルアの友達もこんな感じだったな。彼と一緒にいるキルアはただの子供みたいに笑っていた。キルアが彼みたいな友達と巡り会えたことを本当に感謝している。気がかりだった弟を残していく不安が減ったのだ。

「強化系だね」
「キョーカケイ?なにそれ?」
「強化系は単純一途なの、だから虎杖くんは強化系」
「んん、それって喜んでいいの?」

 なんだか微妙そうな顔をしながら顔を傾けている虎杖くんが少し面白い。小さく頷いてやれば「そっか」と歯を見せて笑う。若くて無邪気で本当に素直な子だ。この子供達を見守っていれば残してきた弟達への贖罪の意識は軽くなるだろうか。

「ナマエさんは?」
「ん?」
「俺がそのキョーカケイの単純一途だったらナマエさんはなに?」

 ふっと頭に蘇ってきたヒソカの声。『キミって奴は典型的な変化系だねぇ。だけど注意しないと大事なものがあっという間にゴミへと変わる』気持ちの悪い笑顔を貼り付けたヒソカのオーラ別性格分析は認めたくないが当たっている。

「気まぐれで嘘つきだよ」

 あっという間にゴミへ変わる。今までがそうだったように。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -