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「一体何があったんだい」

 ヒソカの腕が後ろから伸びてきて膝を抱えて蹲っていた私はゆっくりと抱き寄せられる。シャワーを浴びたばかりの彼の体はすごく暖かいけど、筋肉質で大きな体は硬い。兄でも、イルミでもない誰かの腕の中にいるのは初めてだ。「キミがボクのところに来るなんてね。クロロと喧嘩でもした?」と優しく問いかけてくるが喉元まで込み上がってくる感情が溢れ出してしまいそうで奥歯を噛み締めたままでいた。

「ほんとにクロロが好きだよね」

 何を言い出すのかと思って顔を上げてヒソカを睨んだが、彼は瞳を細めて笑っていた。いつものようなメイクが施されていないシンプルな顔だというのに、妖美さは増しているばかりだ。

「兄さんを好きなわけない」
「別に良いじゃないか、本当の兄妹でもないんだし」
「…え?」

 「もしかして知らなかった?」とわざとらしくにやけてみせるヒソカがそれから何を言っていたのかよく覚えていない。ただこの事実は私にとって衝撃的だったのだ。兄さんと私は血が繋がっていない。今まで似ていると言われてきた容姿も偶然だったのか、それとも風貌が似ているから私を妹にしたのか、真意はわからない。ただ物心つく前から兄さんはずっと側にいた。

 本当の兄ではないなら私を縛る理由などどこにもないじゃないか。ふざけている、今までの私の人生を返せと蒸せ返るような怒りが込み上がってきた。

「でもさ、団長がいなかったらナマエはとっくに死んでたよ」

 いつものようにシャルを呼び出して兄の愚痴を溢していればシャルは満面の笑みでそう言った。今までの会話と表情がまるであっていないほどその笑顔は穏やかなものだったから、うっと息を詰まらせる。それも事実だ、だから何も言えないのだ。

「で、団長から逃げたいから結婚するわけ?それって結局は全部団長のためだよね」
「待ってよ。なんで兄さんのためってことになるの、全然違うよ、逃げたいんだよ私は」
「だって結婚したいっていっても相手のこと愛してないよね?」
「…愛してないと結婚しちゃいけないの?」
「別に良いと思うよ。でもナマエがやってるのはただのお遊びだろ。団長に振り向いて欲しくてそんなことしてるだけ」
「違う、違うよ、なんでそんなこと言うの」

 なんでシャルも兄さんも同じようなことを言うんだろうか、頭の中がぐちゃぐちゃになって思考が溶けていってしまいそうだ。

「ナマエが愛してるのは団長だけだよ」

 その言葉は縫ったばかりの傷口を押し広げていくような不快な痛みを与えた。頭を抱えていた手を離して、テーブルを食い入るように見つめていた視線を上げてシャルを見たが、私はきっと得体の知れない奇妙な生き物を見るような目をしていたと思う。

「何それ。気持ち悪い」



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