3




「俺のことどう思ってる?」

 裸で抱き合っていた時、不意に問いかけられたイルミの言葉に暫く考えて「好きだよ」と返したら呆れたように吐き出された息が耳元にかかった。間があったのが悪かったのだろうか。そもそもイルミがこんなことを聞くなんて信じられなかった。彼と私は恋人みたいなことをしているが、二人の間で愛を囁き合ったことなどない。私は彼にとって都合の良い関係だと思っていた。彼は結婚しろと親にうるさく言われているようだし、兄から逃れたい私にとっても良い物件だ。

「そうゆうイルミはどうなの?」
「答えたらお前はきっと怖くなって逃げ出すよ」
「え?」

 しかし普段感情を表さないからこそ彼が私に触れる手は優しかった。時々その手がひどく恐ろしく感じることも、イルミにはわかっていたのだ。

 兄の寝床である家に帰れば兄は私を労るように優しくしてくれる。一緒にお風呂に入って、髪を乾かしてくれて、熱いコーヒーを淹れてくれる。しかし唐突に「私、結婚するんだ」と呟いてみせれば、深い闇から這い上がってきたように冷酷な顔になって寒気がした。

「何かの冗談か?」
「違うよ」
「…どこのどいつだ」
「教えない」

 深く息を吐き出して兄はカップをテーブルに置いて立ち上がった。咄嗟に兄から逃げようと体が動いたが、伸びてきた手に阻まれる。そのまま力強く壁に打ち付けられれば背中に軋むような痛みが走った。

「やっと反抗期が終わったかと思えば次はこれか」
「反抗期?私はいつまでも子供じゃないよ」
「ああ、そうだな」

 両肩を掴んでいる手の強さがさらに増して、顔を歪めたが兄は冷ややかな顔で私を見下ろしている。しかしその黒い瞳の奥で隠しきれていない憤怒の色が漏れ出して、喉の奥が凍りついた。

「私がいつまでも側にいたって邪魔でしょ」
「そんなこと考えたことがない」
「このシスコンめ!」
「はあ、構って欲しいとはいえ…いくらなんでも結婚はやりすぎじゃないのか」

 何言ってんだこのクソ兄貴!構って欲しいどころか、突き放して欲しいのだと何度言えばわかってくれるのだろうか。

「兄さんなんて大嫌い!!!」

 一瞬兄が虚を突かれたように目を見開いたが、瞬きした瞬間それはとてつもなく恐ろしい目に変わっていた。

「なら兄でいることはお終いだな」

 そして強引に兄の唇で口を塞がれて肩がびくりと動く。胸板を押し返してもびくともしない、頭と体を押さえつけられて身動きもできず、何度も何度も噛みつくようなキスが降ってくる。息ができなくて、熱い塊が腹から頭まで突き抜ける。頭が真っ白になって、思考が溶けていきそうなほど熱い。熱くて、苦しいのに、どうしてかこの苦痛で支配されたかった。こんな感情はイルミとのキスでは決して抱かなかったのに。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -