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 兄の元へ戻った私を兄は今まで以上に可愛がった。上質な服を着せて、綺麗な宝石やアクセサリーを与えられていたが、兄は私に仕事も与えるようになった。盗賊業ではなく、暗殺業だ。今まで血に染めたことのない手で人を殺せだなんて無理だと兄に抗議したが「俺に頼りたくないんだろ」と言われた。もっと違う何かがあったはずなのに、きっと私が五年間も兄の元を離れていたことを心底根に持っているのだろう。

 人を殺したことはないが、私は弱くはなかった。「キミ、本当に甘やかされて育ったのかい?」とヒソカに恍惚な目つきで見つめられるほど、守られていたばかりの私は強かった。あの環境で育てば自然とこうなっていたが、人を殺したことだけはないのだ。だから暗殺というものは未知で恐ろしかった。

 しかし慣れの方がもっと恐ろしかった、私はあっさりと人の心臓を握りつぶすようになっていたのだ。兄には「今まで甘やかしすぎたな」と言われ、他の団員には「仲間になれよ」と勧誘されていたが、絶対にそれだけは嫌だった。切っても切り離せない兄の妹だというのに、これ以上団員として兄に縛り付けられるなんてごめんだ。

「もしかしてお前がクロロの妹?」

 血に濡れた床に踏み込んできたのは髪の長い男だった。顔を傾けて問うているのだろうが、感情が一切現れていない表情はとても違和感がある。ヒソカに続いて、また変な奴が現れたなと辟易した感情が溜息となってこぼれ落ちた。

「そうだけど」
「へえ、結構似てるんだね」
「はあ?似てないから」

 黒い髪も、ビー玉のような瞳も似ている似ていると散々言われてきてうんざりしているんだ。兄のように性格の悪い男と似ているなんて考えるだけで反吐が出そうだ。男はイルミ・ゾルディックという、あの有名な暗殺一族の長男だった。偶然彼のターゲットも一緒に殺してしまった瞬間から彼との付き合いが始まった訳だが、それは友人としてではなく恋人という不可思議な関係だった。

 どうしてこうなったのかは覚えてはいない。膝の上で瞳を閉じて眠るイルミの長い髪に指を通しながら、ふと兄のことを思い出して一気に粘ついた嫌な感情が喉元まで迫り上がってきた。

「バレたら殺される」
「は?誰に」

 いつの間にかぱっちりと目を開いていたイルミの光のない目が私を覗く。そんなの答えなくてもわかるじゃないかという顔で黙っていれば、イルミは少し何か考えるような顔をした。

「じゃあ結婚でもする?」
「…なんでそうなるの」
「だってナマエがうちの家に嫁に来れば流石に口出しできないでしょ」

 そんなこと考えたことがなかった。イルミ、ナイスアイディアだ!イルミの顔を押さえつけて勢いよくキスをすれば、歯が当たった。それが痛かったのかイルミは眉を寄せていたが、機嫌が悪そうには見えなかった。


つづく



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