8

「は?」


まったく状況を読み込めないようだ。
今まで何が起こっていたかの説明を受けても、目を白黒させている。


「僕が隼人とか武とか雪とか骸の口調になってた?」


そりゃあどれだけ説明を受けても信じられないものは信じられないだろう。
ましてや記憶がない間、性格が好き勝手になっていただなんて。


「確かに頭はズキズキするけど……」
「多分それ死ぬ気弾の後遺症とかだと思うよ」
「いやその前に、性格変わるたびに頭ガンゴンぶつけてたからだと思うよ雪!?」

雪が未来の頭を撫でると確かに数個たんこぶが出ていた。
そういうわけで今は、保健室に氷嚢をもらいに行っている。


「でもそれまた突拍子のない話だね。なんでそんな回りくどいことを?」


その質問に、三人は黙って目を逸らし獄寺を指差した。
当の獄寺は気まずそうに目を逸らす。
未来にじとりと見つめられてもだんまりだ。


「隼人……?」
「っ……」


名前を呼ばれてやっと獄寺は未来を直視する。
未来に睨まれ、雪たち三人に見つめられ、逃げ場はないらしいと悟った獄寺はついに腹を括った。


「リボーンさんの口車に乗せられて…ッ」
「で、僕の性格をいじるのは面白いと思ったの?」
「実際面白かっ」
「雪ッ、シー!」


思わず本音を零した雪の口を慌てて綱吉が塞ぐ。
だがそれを傍目に、未来はただ一直線に獄寺を責めるように見つめる。
その視線に耐え切れなさそうな獄寺はこれでもかというほど目を逸らす。
だが、ついに痺れを切らした未来がガッと獄寺の頬を掴み固定したことにより、完璧に逃げ道は塞がれたのだ。


「……喧嘩、しただろ」
「は? いつ?」


気まずそうな声を出す獄寺に未来が返したのは素っ頓狂な声。
毎朝まるで朝の挨拶のように交わされる言い争いはもう彼女にとっては喧嘩でもなんでもないらしい。


「今朝しただろうが!」
「今朝……? ……あぁ! って、あれは喧嘩じゃないでしょ」
「そこはどうでもいい。とにかくその時俺は、なんでお前はこんなに可愛げがねぇんだーみたいなことを言ったわけだ」
「……ほぉ。……泣いて喜べ。殴るのは待ってやる。……で?」
「言ったわけだ」
「で?」
「言ったわけだ」
「で?」
「言ったわけだ」


暫くの沈黙。
じとりと未来は獄寺を睨み続ける。
そしてようやく口を開いた。


「え、それだけ?」


素っ頓狂な声に獄寺は神妙そうに頷く。


「それでリボーンが性格変えてやるとか変なこと言い出したの?」
「正確には新しい死ぬ気弾だとか言っていた」
「元凶やっぱリボーンじゃんか!」


未来の言葉に獄寺は遠い目をする。
むしろ未来は獄寺に死ぬ気弾を撃ってくれと懇願したとでも思っているのだろうか。

クッソ、リボーンには逆らえない……と泣き言を言う未来は、思い切り保健室の扉を開ける。
いきなりノックもなしにすごい勢いで開いた扉に、シャマルはびっくりしたように目を見開いた。


「雪ちゃーん! 愛に来てくれたのか〜!」
「会いにくるの漢字違ぇよ、とっとと氷嚢出せ変態保健医」
「あ? 未来か」
「今気づいたみたいな顔やめろ腹立つ!」


拳を握りさりげなくシャマルから雪を遠ざける未来。
そんな未来など気にせず、シャマルは氷嚢の準備のために小さめの冷蔵庫へと足を運ぶ。


「どうした、氷嚢なんざ。死んだか?」
「わざと言ってんのかアンタ。第一氷嚢で致命傷治るか!」


冷静に返す未来に、シャマルは振り向きざまにものを投げる。
それを片手で受け止めた未来は、そのブツを確認した。
背後で「あとでキャッチボールしような」という山本の天然な声がかかったがあえて無視らしい。

手に伝わる冷えた感触。
ガッチガチに硬いそれは、お弁当とかを冷やすアレだった。


「おい手抜き! せめて袋かタオルと一緒に渡せよ!」
「あ? お前にはそれで十分だろうが。おい勝手にタオルに触んな。それは体育で転んじまった子猫ちゃんのためのもんだ」
「ふぁっきゅー。PTAに訴られたくなけりゃ黙れ」


女らしいとは程遠い中指を立てるという行動に、シャマルはため息をついた。
「どこで育て方間違えたんだか……」だのと呟いているが、シャマルは一度も未来を育てたことがない。
むしろ彼女の面倒をみていたのは獄寺とビアンキだけだ。


「お前今日は一段と口悪くねぇか?」
「お前のせいだろ」
「んー、でもいつもより乱暴なような……」
「え、雪まで」


普通だろー? と首を傾げる未来は、ふと背後の窓際に気配を感じた。
ばっと顔をそちらに向ければ、窓枠に座る黒ずくめの赤ん坊。


「リボーンさん!」


いち早く獄寺が名前を呼ぶと同時に、リボーンは窓枠から飛び降りる。
そして未来の方へ歩み寄る。


「ちょーっち待てよリボーン。俺はあんたに言いたいことが……ん、俺?」


首を傾げる未来に、リボーンは意味深な笑みを浮かべる。


「実験協力サンキューだぞ未来」
「いや好んで協力してませんよ。え、ちょなんで敬語だし」
「おかげで副作用を確認できた」
「副作用?」
「ちょ、リボーンそれ何か危ないもんなんじゃ……!」


混乱している未来をよそに、雪と綱吉はリボーンに詰め寄る。
だが、リボーンは何食わぬ顔で答えた。


「どうやらいろんな性格だったせいで、それらの性格が混雑してるみてーだな。性格が安定するまでにどれくらいかかるかも調べねーとな」
「……つまり?」
「つまり、笑う時に骸のように笑ったり、不意に「咬み殺す」とか言い出したりするぞ」


いちいち片目を赤くしたり、トンファーを持ちだし強調するリボーンに、未来はゆっくりと両手を頭に持って行く。
そしてそのまま頭を抱え、絶叫した。


「いやぁああああ!」
「お、その叫び声は雪だな」

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