7

「どうして……リボーン、リボ……!」


雪が言葉を終える前に、リボーンが現れた。


「……大丈夫だぞ」
「大丈夫って何が!!」
「ぅ、ぅぁ……! く、い、だぁ……!!」


未来のきつく閉ざされた瞳から、涙が滲み出ていた。
自らの頭を抑える手には力がこもっていて、たてられた爪からは血が滲み始めていた。


「未来、大丈夫!? どこが痛いの!?」
「あ、たま……いたッ……!!」
「リボーンさん、これどうなってるんスか!! 未来は……!!」
「炎を見てみろ」


いつの間にか、炎が徐々にオレンジ色に染まりつつあった。
それにつれ、未来の表情も少しずつ和らいでいく。


「オレンジ色……? え、どして……?」
「俺がそう設定したんだぞ。まぁ、頭痛がそこまで激しいとは想定外だったがな」
「設定したって……何を設定したんだよ、小僧?」


ようやく未来が落ち着いたのを尻目に、リボーンはいつものようにニッと笑って見せた。


「ランボや了平のような未来は俺も耐えられねぇからな。ランボと了平のデータだけは取り除いておいたんだ」
「それだったら骸とかも取り除いてよ! 特に骸を!!」
「骸しか言ってないよ、雪!?」
「ははっ、骸の扱いがひどいのなー」


のほほん、としながら山本は言うが、明らかに嫌そうなオーラが出ている。
彼も彼で、流石に未来があんな風に「クフフ」と笑う姿を見ていられなかったのだろう。


「まぁそれはそれで面白いからいいじゃねェか」
「それならそれで、ランボとかは面白いで済まないの?」
「あぁ、……特にランボはうぜぇからな」
「うわぁはっきり言ったよこの人!!」


やれやれ、と肩をすくめるリボーンに綱吉は苦笑したが、リボーンは華麗にそれをスルーして窓に飛び乗った。
ちなみにリボーンにとっても、今が授業中だということは頭にないようだ。


「……じゃあ、頑張れよ」
「……へ? あ……」


雪は何をがんばればいいのか、と尋ねようとして思いだし、口を閉ざした。
慌てて振り返り、雪は未来を見つめた。
……未来が、起き上がっていたのだ。


「皆……今、授業中だよ?」


苦笑しながら未来が言うと、4人は同時に動きを止める。
一人、綱吉は苦笑しながらゆっくりとした動作で自分を指差す。


「……え、俺……?」
「へ、何言ってるんだよ、綱吉?」


眉をしかめて、未来は綱吉を見つめた。
きょとりとした表情は、普段の綱吉とよく似ている。
喋り方も瓜二つだし、何よりリングに灯った炎がオレンジ色であることが何より綱吉を指示していた。


「「これはこれでいい」」
「お前らどんだけ未来が好きなんだ?」
「……まぁ、未来も雪のこと溺愛してるしお互い様なんじゃない……?」


ぐっと雪と獄寺が握り拳を作る。
雪の場合は大人しく怖がりな未来を見て楽しんでいるだけだが、獄寺にとってはいつもは騒がしい妹が、親愛なる10代目と同じ性格な今はご褒美のような気分なのだろう。
それを見て、綱吉と山本は苦笑せざるを得ない。


「意味分かんないって……と、とにかく授業中だからさ……」


やばーい、未来が可愛いーとか言い出した雪に、未来は少し照れながらゆ、雪の方が可愛いって……と答える。
それを見た瞬間、獄寺は眉をしかめた。
流石にあの何様俺様未来様が頬を染める姿は彼にとってダメージがでかかったのだろう。
たとえそれが10代目の性格であっても、だ。


「……悪夢だ」
「誰のせいだっけなー」
「うるせぇ野球バカ! 俺だって自覚してらぁ!」
「ちょ、もう隼人煩いって! 喧嘩はせめて授業の後で!」
「くっそ、10代目に怒られた気分だ!」


ことの発端はすべて獄寺に行くとは言え、今までの未来の変な行動(変なのは今に始まったことではないが)への罪悪感、綱吉の性格の未来、そして自分や未来だけじゃなく10代目や雪、山本に迷惑をかけているという腹立たしさに追われていることを考えていれば、今一番苦難を覚えているのは獄寺だろう。
常に10代目命のような態度を取っている獄寺だが、内心実はいつも一緒に過ごしているこの綱吉を含める4人にはマフィア間ではない、確かに仲間意識が芽生えているのだ。

もうあえて獄寺・未来・綱吉・雪・山本のグループを完全に意識の外から除外した教師は、黙々と黒板に数式を書く。
周りの生徒も、既に至極慣れましたと雰囲気で物語りながら各々授業に参加している。

それをみた獄寺は、渋々ゆっくりと自分の席につき、両足を教科書を置くためにある机の上に置いた。
視線を窓に向けながら、彼の頭の中では思考が行き交っていた。


(リボーンさんに弾を撃たれたのは朝……時計は確認してねぇが、教室に入った瞬間のことだったはずだ。なら時間は8時15分前……あの時リボーンさんは1〜2時間っつってたが、どう考えても既にそれ以上経っている)


視界いっぱいに広がる青空を見つめながら、彼は青空など視界にも入れていなかった。
彼の意識はすでにすべて脳内の計算に持っていかれてしまっているのだ。


(今は1時25分……なら最低でも5時間はもう経っている。普通3時間も計算ミスするか? しかもあのリボーンさんだぞ? 試作品段階とはいえ……)


不安そうな獄寺を置いて、時間は刻一刻と進んでいき、ついに効果は終わりを告げた。


「……ん?」


静かな教室に響いた未来の声に、唐突に教室中の視線が未来に集まった。
当の本人はそれを気にすることなく、むしろ気にする余裕もなく、ただ自分の手元を見つめていた。それはもう、唖然とした表情で。
そんな未来の手元には、もう炎は灯っていなかった。

未来はきょろきょろ、とあたりを見回してみた。
その顔は至極呆然としていて、まったく状況を掴めていないようだ。


「あれ……?」

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