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未来が雲雀の性格になってから早数分……
そこにいる誰もが、困り果てていた。
「……未来?」
「……何」
親友である雪が話しかけても、いつものようではなくただ冷たい返事。
少なくとも答えているあたり、雪への友情基愛情が感じられる。
先程獄寺が話しかけた時は、冷たい視線だけで返事もしなかった。
「てめぇ、いい加減もとの性格に戻れっ!」
「……何の話? わけわからないんだけど、君……」
獄寺は頭を抱えた。
自責や後悔、様々な念が今の彼を苛んでいるのだ。
その様子を、リボーン本人は逆に楽しんでるとも知らずに……
事情を知った綱吉一同は、獄寺を責めはしなかったが、明らかに何しでかしてんだよ爆弾野郎、というオーラをまとっていた。
特に雪からは、じっとりと視線を送られ獄寺に無言の圧力をかけていた。
未来の性格はもとから何らかおかしい性格だったが、雲雀の性格ともなると、かなり厄介なことになってしまっているのだ。
そう、たとえばついさっき終えたHRでは……
「と、言うことだ……じゃぁ……」
「ねぇ、うるさいんだけど。眠れないじゃないか」
「……高城、今の言葉、もう一回言ってみろ」
「何、聞こえなかったの? 年だね。僕……んぐっ!」
言い終える直前で、雪が思いっきり未来の口を塞ぐことで最悪な事態を免れた。
こんな神業ができるのは、おそらくこの世で雪しかいないだろう……
「す、すみません、先生!! 今日、未来はちょっと具合悪いらしくて……気分悪いんで、性格も悪くなってるんです! どうか今日だけはご無礼を許してください!!」
という雪と綱吉の必死な謝罪により何とか許しはもらえた。
が、これからもこんなことが続くのかと考えれば、彼らは頭を抱える思いだった。
今、未来はそばに立っている仲間の気持ちなぞ露とも知らずに、一人で本を読んでいる。
我関せずといった態度が、さらに獄寺の怒りを煽いだが、それでももとはと言えば獄寺のせいなのだから何も言えない。
だが一人、綱吉だけはずっと未来を見つめていた。
まだこれで終わりじゃない……まだ何か起こる……そんな気がしてならない。
そう、綱吉特有のあの超直感……綱吉はそれを感じ取ったのだ。
しばらくして、そのページを読み終えたのか……未来は次のページをめくった。
次のページがめくられたその瞬間……未来は目を見開き、短い悲鳴をあげこめかみを抑えた。
先程、リボーンに撃たれたところだ。
「ぅぁっ……!!」
「み、未来!? ど、どうしたの!?」
ずっと未来を見つめていた綱吉がいち早く反応し、すぐさま未来に駆け付ける。
半分心配、半分もとに戻るんじゃないかという期待もあった。
先程の獄寺のように、綱吉は何度も未来をゆする。だが未来は顔を顰め目をきつく閉じたまま、歯を食いしばっていた。
やがてリングの紫色の炎が消え、いったん元のリングに戻った。
……だが、しばらくすると……まるで期待を嘲笑うように、藍色の炎をともした。
「痛いですね……ボンゴレ、あまりゆすらないでください……」
その途端、揺すっていた綱吉はおろか、全員が硬直した。
やがて軽く青ざめた様子で綱吉は未来から、後ずさりするように一歩二歩と離れていく。
「雪……後は任せた。俺、もう疲れたかもしんない……」
「ちょっとやめてよ。これもう私の手に負えるレベルじゃないよ。私も疲れたよ」
「ははっ、未来きもいのなー」
流石天然という言葉では片付けられないほど堂々と毒づく山本。
その言葉に、未来はピクリと反応した。
「……失礼ですね……そんなに殺されたいんですか?」
「いや……お前、マジでキモい……」
「クフフ……容赦はしませんよ? 獄寺 隼人……」
ぞわりと獄寺は自分の腕が粟立つのを感じた。
ただでさえ未来は普段から敬語を使わないからそれだけで気持ち悪いというのに、「クフフ」と笑われてしまっては地獄だ。
その時、全員という全員が骸に殺意をむき出しにしたという……
「せめて……せめて、クロームだったらよかったのに……!」
「さすがツナ……私も今そう思った。 ってか、そう願った」
「今度皆で骸の口調変えてみっか?」
「……今度じゃ意味ねぇよ……今じゃねぇと……今、この瞬間じゃねぇと……!!」
……珍しく4人の意見が合致した瞬間。
「…………こういうのもファミリーとして、必要だからな」
うまいこと言い逃れるリボーン。
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